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 昼休みに入る前から、というかちょっと待てよ、産婦人科に行ったという予想で間違いないだろうかという考えに至る。
 そのパターンで彼氏がお出ましって、もしかして俺も危機だったりして様々に。病気問題と誰の子か問題。どうしようそうだったら。

 いや、考えてもどうせ碌なことはないと朝に学んだはずだ。
 病気だった場合俺も病院だし俺の子だった場合は結婚する気だったのだから問答無用で軟禁から彼女を解き放つことが可能ではないか。

 …全く俺は何を考えているんだとパソコンを見ればまぁ並みに進んでいる。のだけはわかったがそこから全然仕事が手につかない。

 碌なことがないだろうしなんてシチュエーション、設定だ、最早鷹峯竜二、早く来いとまで吉田は思い始めていた。

 しかし同時にぶち当たる、第三のセフレからの襲撃電話事件を考えると、もういいやドアが閉まりまーすと遮断してしまいたかった。

 吉田が事故ると結構まわりは止まってしまう。
 「主任、誤字です」だの「レイアウトが若干切れてます」だのと指摘を受けた午前。

 落ち着かず12時ジャストに吉田は「何食いたい?」と送ったが返ってこなかった。

 そうだよな、彼は電車に乗っているだろうと、既読がつかないことにあ、伊織に送ってしまったと気付いたので、鷹峯竜二に送り直す。この件の弁明は即座に済ませたが、こちらは既読スルーだった。

 もだもだしつつ焦ってあっという間に12時15分の鐘が鳴り、リミット来たりと「会社前のベンチにいるから」と送ってすぐに部署を出た。

 下まで降りて数分だったが、会社前のベンチとは指定したが自分が想定していた斜め前ベンチではなく、真ん前に金髪がいた。
 ファッションは地味タイプでも、場所柄一発で鷹峯竜二だと核心出来るほどに金髪は浮いている。それも若干の威厳のような物かもしれない。

 竜二はヘッドフォンで音楽を聴いていた。吉田が真ん前に来て漸く「あっ、吉田さん」と気付いてぺこっと頭を下げた。

「すんません急に」
「いや、大丈夫だよ。ちょっと一時間くらいしかないんだけど、大丈夫かな?」
「あぁ、はい…」

 竜二が心なしか似合わず、なんだか暗いような気がしなくもないのは自分のさっきまでの不安か、それとも場の萎縮か。身構えねば何が飛び出すかわからないと、「取り敢えず何食うか」と吉田は一息吐ける感覚で見慣れたその辺を眺める。

「何でもいいっすよ…あんま気にしないでください」
「そうだなぁ…」

 しかしぼんやりと動こうとしない竜二に、これは凹んでいる方かと思い、「外の方がいいかい?」と聞いてみた。

 見上げたが何も言わない竜二に、そうか、と「なんかコンビニで買いに行くか」と聞いたが、「はぁ、俺はまぁいらないです」と、うーん予想がつかなくなったなと、取り敢えずもう少し待たせることにして、コンビニで弁当と菓子パン、とコーヒーと茶を買った。

 「コーヒーとお茶は?」と聞いてやれば「すんません、コーヒーで」と言うので然り気無く菓子パンも一緒に与えた。

「…で、どうしたの」
「あぁ、はい。ご報告が必要か…いや、個人的に来ました」
「取り敢えず真柴さんは」
「えぇ、はい」
「わかったちょっと覚悟す」
「あ、大丈夫っすよ、性病とかじゃないんで」
「……ドストレートにくるよねぇ、君。うーんその線はバツね」
「はい」
「いや取り敢えずまずは、真柴さんは元気なの?」

 この青年はそうだ、話も早いタイプだよなと、お茶を一口飲むのみで落ち着かねばなと考える。

「はいまぁ、いま家で爆眠中です」
「…それはよかった。結局よくわからなかったんだが、マジで病院に行く感じだったわけだね?」
「はい。爆眠も漸くって感じで」
「…君が家に縛り付けてるとかいうのは?」
「は?」

 竜二がポカンとしてしまったので「あ、ごめんいまのスルーして」と言い吉田が忙しなく弁当を開ければふと竜二は笑い、「確かに束縛系ですけど、違いますね」と言った。

 微かな笑い方、よくよく考えれば年相応な感じの表情、初めて見たなぁと感じた。
 これに伊織は「可愛いな」と思うのだろうか、などと吉田は考えた。こちらまで少し、肩の力が抜けるような。

「いやぁさっきのメール。流石だなぁと俺は思ったよ。伊織ちゃんに送ったのに君から秒で来たからさぁ」
「あー、何食いたいって送っちゃったってやつ?」
「いやいやその前の」
「ん?」
「え?」

 間。
 もしや勘違い?

「いや、え、あの…上司として体調大丈夫かメールを」
「あぁそうだったんですか。たまたまだと思いますけどなんで動揺してんすか?」
「いや君束縛系だと」
「あ、メールチェック的な?いやいやあれ都市伝説でしょ」
「いや、意外といるからね多分」
「なんかまずいもん送ったんですか?」

 茶化しているか煽っているかわからん。でも表情は緩やか。しかし人は何を腹の中に飼っているかわからんもんだ。

「いや、なんもなんも」
「嘘臭いなぁ。まぁいいけど。彼女ならあり得るけどセフレっしょ?」
「おーきな声で言うんじゃないよぅ、会社前なんだから」
「あ、そっすね」

 しかしどうやら先日より話は進みにくいようだ。先日は酒が入っていたせいかもしれないが。

「…で、まぁ真柴さんは大丈夫だったとして…。何かあったの?」
「あぁ、そうでしたね、その話でした。
 …うーんまぁ、昨日の件で」
「うん」

 竜二は若干俯いては落ち着きがないような、考えているような、所在なさげに手を組み直したりしている。

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