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「まぁ何にせよありがとうございますね。多大な、公害レベルの迷惑を掛けました。あんたも刺されないでくださいね吉田さん」
「…まぁ桝くんは、大丈夫だと思う…。あーゆーのってプライド死ねば終わると思うんだよね」
君の方が刺してきそうな気がするけどね。
「そんな感じの野郎なんですね。流石年の功。しかし常識を逸脱してるんで、やっぱ伊織は送り迎えするべきですかね?」
「あーそうだねぇ…出来ることなら数日って感じだけど、まぁまぁ伊織ちゃんも大人だから。俺警察に付き出すぞって正規ルート踏んだし」
「うわぁ助かります」
「なんだか不思議だねこの関係」
伊織が言うのにふと黙り、「え?お前が言うの?」と「伊織ちゃんが言うの?」とハモった。
「パイプ繋いだのお前だからねマジで」
「はははそのギャグエモいねリュージ」
「うんそうだったね、伊織ちゃん宇宙人だったわぁ…。ホントにその子縄で縛っといた方が良いかもよ」
「あぁ、なるほどなぁ。流石ムッツリ」
「いや違くて、趣味じゃないから」
「今のは吉田さんが悪いと思いますよ。しかし…縄かぁ…」
「痛いのは嫌だからね」と言った伊織に「…そうだなぁ」とリュージは染々する。
こりゃぁ結構近々かな。
なんだかんだ雑談をしてごちそうさまをすると、突然リュージが「あっ、思い付いた」と立ち上がるので何事かと吉田は構える。
リュージは「伊織皿洗っといてくんない?」とだけ言ってベッドの楽譜とケータイを手に取ったので吉田は安心し、伊織は「りょーかい」と皿を下げた。
リュージは壁に凭れながらケータイを耳に充てた。
「あ、もしもしゲンジ?久しぶり。今へーき?
え、あぁ。ナニソレみんな第一声で言うなぁ、広まってね?うんいるいる元気元気。いつでも盛ってるわ」
間違いなく伊織の事だろうなと吉田は伊織を見るが、本人は気にもせず皿を洗い始める。
「いや急にごめん。確かゲンジ、3ピースのとこに入ったよなと思って。グラシアの|曽根原《そねはら》さん、まぁ1本入れたいらしくてさ。そー、ライブ近々やる予定なんだけど」
話す表情を見れば話す音声よりも、確かにキラキラしていて、高校生くらいの男の子のようだと吉田はそんな竜二の一面を見た。
伊織はそれに「ね?」と言いたそうな、そんな顔をしている。
こっそり吉田が「お暇するよ、ご馳走さま、」と言い立てば、リュージは軽く会釈をする。
水道を止めた伊織は「玄関まで」と送ってくれた。
「悪いね、美味かったよとリュージくんに」
「はい。
先輩、今度リュージのライブ、行きません?大体は仕事帰りくらいの時間で出て…丁度良いです」
話す顔が、嬉しそうに笑っていて。
「あぁ、まぁ、そうだね。たまにはいいかも」と、微笑ましいなと吉田は素直に思った。
「…じゃぁ、長居してごめんよ。ありがとう。伊織ちゃん、身体に気をつけて」
在り来たりな、けれども心が籠っていると感じた伊織はペコリとお辞儀をしてドアを閉めた。
振り向けば見えるリュージも楽しそう。
お皿洗いかけだとキッチンに戻れば「いやぁ、ワンチャンメンバー狙ってて」と、やはりバンドの話だったようだ。
話ながらリュージはちらっと伊織を見る。特にきっと意味があるわけではないのだろうけど、伊織は嬉しくなったような、そんな初恋の気分で皿を洗い終え、まずはフグに餌だ、と、冷凍庫から赤虫を取り出した。
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