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リュージはバイトのレンタルショップに行ったようだった。
宿泊止まりで伊織が起きた時間は昼前の、ドアが閉まる音。
お腹すいたな。
思い出した伊織はケータイで吉田の連絡先を開いてみるが、掛ける言葉も正直なかった。
変わりに「桝」のメールを開くがそれも一緒。こちらからアクションをせずとも月曜日の昼頃には勝手にyesかnoが送られてくるだろう。yesなら都合の良い駅に行けば良い。
テレビは消えていた。
ダルいなぁと、伊織は服も着ないまま毛布にくるまってテーブルへ手を伸ばす。
そろそろ歳かもしれないなと、背中の筋が切れそうになる前にリモコンを諦め、溜め息を吐いてベットに戻る。
自分の何が良いか、いや、そんなものは何一つないと頭に誰かが話し掛けてくる。
多分、その声は自分の物で、何故だか内にある声の方が自分の生の声を掻き消すほどに主張力があるのだ。
その中で「流石にどうかと思うわ」という声が聞こえた。吉田はあれからやっぱり、どうしたのだろうかと急にそわそわと考え始める。
衝動で再びケータイを手にするが、しかしなんと言えば良いか。
そうか、掛ける言葉がないというより、自分には掛けられる言葉がないのかと、心が濁る気がした。
まぁ、終わりだよな、同僚だなんて面倒だったなという考えに遠くから「最低だわ」と聞こえるのもどうでも良い。
太腿がぬるぬるというかすべすべする。それが妙に胸を締め付ける。
スッキリしたいなと伊織はシャワーを浴びようと決意する。
体を洗って髪を乾かしてあれから30分よりは経ったらしいのにと、風呂から出てケータイを見ても、当たり前だが吉田からの連絡はない。
約束すっぽかしちゃったな、不履行になったとしても。
ならなんでこんなことをしているんだろうとまた溜め息を吐く。
本当は吉田だってなんでもよかったんじゃないの?と言うのに「最低だな」がコントラストしてしまう。
お腹すいた。
面倒だから寝てしまおう。30分だけで充分だと目を閉じる。現実か夢かは曖昧だと考えながら。
…………、
ドアが開く音に目を開ければ夕方の日差し。そんなに疲れていたんだっけとぼーっとすると、こっそりとリュージがベットを覗く雰囲気を感じ目を合わせた。
「…おはよう」
「ただいま。いつ起きたの?」
「今」
「マジか俺の5000円分」
枕元でしゃがみ水槽を見て、「昼飯食ってないのかみんなして」と言うリュージに「はは、」と笑えた。
「それって死なねぇの?」
「多分何か勝手に食べてるから大丈夫」
「お前は?腹減らねーの?」
「起きたばっかりだから」
「……ん?風呂入った?」
顔を近づけ臭いを嗅いでくる。
「うん一回起きた」と言えば、リュージは髪を耳に掛けてくれた。
「まぁ確かにまんまだったら引くわ。あのさ、時代劇見よーぜ。パクってきた」
「…コメディか恋愛がいい」
「いやぁSF系ムリっぽかった」
「話通じてない。コメディか恋愛がいいって」
「あー…」
ビデオショップの袋からDVDを出し、「コメディも人気あって全滅してたわ。いま上映中の監督」と、やはり話は通じていない気がする。
「俺この巨匠芸人監督の映画、多分ヤクザっぽいのかなと予想はついたけどこれあったから。観たことある?話題だったじゃん、出たとき」
「…それよくわからないダンス入る」
「マジ?なにそれ」
「元の映画との違いを出すにしても意味がわからない」
「元の映画?なに、リテイクなのこれ」
「うん」
まぁいいか、とリュージはテレビの下のプレステ2にDVDをセットしコントローラーを弄る。
その背中に年下の男の子、と思えば「なんか食う?」と聞いてきた。
「お前が死にそうだった時パターンとして、コンビニでゼリー買ってきたけど」
リュージが顎をくいっとやった先はテーブルの上の袋。
「…食べる」
伊織はベットから這い出て、暫くゼリーを消費した。
リュージが変わりにベットに寝転ぶのだから、伊織は座ったままになるが、「なんだこれ」と途中、リュージは布団の中で何かをやっていたが。
「おい伊織」
振り向けばリュージは奇妙な顔をして、くしゃくしゃに丸まった伊織の下着を眺めていた。
「あっ」
「何故?寝巻き着て何故?」
「新しいパンツ穿いた」
「そうじゃねぇよバカかお前」
言いつつリュージは「ふはははこれハズくね?ハズくねぇの、ヤバイサイトで売ってやろうか」だなどと言いながら指でくるくるまわすのだから堪ったものではない。
「今時あるのそんなサイト。返してパンツ」
リュージはいたずらっ子のように笑い「おらよ、」と、あろうことかそのパンツをブラジャーに突っ込んできては「つっまんねぇ、コレ」と映画を批判した。
「早いでしょ」
上の空で「うーんはーい」と言いながらそのまま胸を揉みしだくリュージにはあ、と溜め息が出た。
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