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 青のりは取れたしと、リュージは自分のベットに寝転がりニュースを見ていた。

 23時のニュースが終わるタイミングで伊織が風呂場のドアを開け、直ぐにドライヤーを掛ける音も近くで遠く感じる。

 芸能人が、暴露トークにもならない話をただ駄弁っている、何枠に入るかもよくわからない番組に切り替わる頃に伊織はリビングに戻ってくる。

 リビングの横にある、オープンクローゼットのある自室へ戻り、伊織はスーツに消臭剤を掛けていた。

 多分そんなものはクリーニングに出した方が早いのになと、つまらないテレビを前にしてリュージがケータイを手にすると、伊織は黙ってリュージのベットとテーブルの間で膝を抱えテレビを眺めた。

 少し黙っていたが、「出てくけど」と伊織はふと言い捨てた。

「怒る意味がわからん」
「別に。リュージも意味わからん」
「嫉妬だったらまだましだとかそんな人間的で乙女だっけ?お前」
「違うね」
「じゃぁこっち来いよ」

 伊織が振り向きリュージは自分の前をポンポンと叩く。
 素直にベットに乗り上げた伊織の上に乗ったリュージは、意味もないよなと思いつつ、伊織の口内を混ぜるようにキスをした。

 それだけで伊織は目に見えて肩の力を抜く。ヤるつもりだったにしては変に構えているなと、なのに伊織の髪を優しくすく手にいたたまれない自分が存在するようで、伊織のハーフパンツの裾からもう片手を突っ込んだ。

 口を離せば伊織は直ぐに顔を背けてテレビをぼんやり眺めている。
 だが、快楽というよりは少し、負に近い感情で眉を寄せたのかと、キラキラと伊織の目に映ったテレビの光に「面白いかコレ」とリュージは訪ねた。

 今日は口を利きたくないと思った中の気紛れだ。

「……この女優さん好きじゃない」

 見なくても誰が喋ってるかくらいはわかるほどにうるさい。

「消そうぜ、俺テレビ嫌いだし」
「どっちでもいいよ」
「リモコンどこ置いたんだよ、お前がつけたんだよね」
「知らない」

 本当は何気なく下の床に置いたことを伊織はわかっているが、「子供かお前は。すぐ物を無くす」と言いながらホックを外しに掛かるリュージを愉快に感じた。

 今度は水槽のアベニーパファーを眺めながら、「餌は虫だから」と伊織はリュージに言った。

「あの気持ち悪ぃ赤いうにょうにょ?あれ虫なの?」
「うん、」

 ホックが外れ胸囲に解放感。

 「んなもん冷凍保存してんじゃねぇよ」と言うリュージはしかし、胸を揉む手は優しくて、笑っていた。

 口も利かずにどうでもよくなった番組の隙間には水槽濾過機が水をまわす音、僅な生温いリュージの息に、なんでもいいや、と伊織は思えてくる。

 フグは、自分がいなくなればリュージは世話も出来ずネグレクト状態で死ぬだろうし、吉田は年齢的にそんなに切迫しているなら今頃婚活アプリでも開いているだろうし、リュージだって連帯保証人くらい放置するか誰かに頼むだろう、月曜日の桝に至っては電話帳に名前があるだけの男に成り下がるだろうし。

 伊織にはそれが非常に愉快だと笑えてくる気がした。だって、自分は誰の中でも欠片しかないのだから。

 もし刺されでもして自分が死んだとき、これらは口々に自分を知った気になって話す。でもまだ私に行き着かない。
 リュージに至っては恐らく話もしないから、より謎が深まり有耶無耶になって、長くて1週間程で誰もが自分を忘れる。

 そこまで考えて確かにリュージは少し特別だな、と、起き上がれば下着を片足の踝に引っ掛けただけのアラサーに成り下がっていた。

 思ったより焦れったく、自分が優しい心根だと知らない27歳のエレキ青年が「何」と素っ気なくも期待か驚きを見せている。

「下」

 たまの気紛れ。
 明日もあるのだしと位置を変われと伊織が指示すれば青年はおとなしい。この男はあっさりと、非常に素直だと腹に思いを沈ませるのが痛く、どこか愉快だと感覚が死んでいくようだった。

 その色は、例えるなら本当は、底冷えするような水色だと伊織は知っている。

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