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 悠が仕事を終える18時まで、私は図書室で宿題を進めた。『こころ』の、次の授業でやるところを予習する。ちょうど、最後のところだった。

 主人公は、Kがお嬢さんを好きなのを知っていた。だけどもKより先に告白しちゃったのだ。
 何てずるい奴なんだろう。その時の私はそう思った。今こうなってみてまた読んだら、私はまた違った感想を持つと思う。

 18時になって図書室を出た。南門の前で少し待つと、少しして悠の車が止まった。運転席から手招きをされて、私は周囲を見渡してから乗り込んだ。

「お待たせしました」
「図書室で宿題やってました」
「ねえねえ、このあとさ、ちょっと寄り道しない?」
「えっ」

 まさかの提案に、どう言っていいかわからなかった。

 少し前から思っていたけど、この人なんか変わってる。どうして私にばかりかまうの?授業中とかは全然普通に“一生徒”でしかないって言うのに。

「もし家の人とか厳しかったりしなかったらね。待たせちゃったし夕飯でもご馳走しようかなと」

 たったそれだけの理由で、生徒と教師が、そんなに親密になっていいのだろうか。バレたらなんか…なんかヤバいんじゃないだろうか。

「ゆ、夕飯とか、あるし…」
「じゃぁ軽く、スタバにでも行こっか」

 何も返事が出来ないまま、私たちはスタバに向かった。店内で、かと思ったら、ドライブスルーでドリンクだけ買って、そこからしばらく走った。ほとんど何も話せなくて、何か喋らないと本気で不自然だと思うのだけど、私からはなにも出てこない。

 そのうち車は、大きな公園の駐輪場に止まった。

「散歩しよ?」

 確かに今は外の空気が吸いたい。だけどこれって何かおかしくないか?

 そう思っても言えなかった。悠が車から降りるから私も降りる。この頃はまだ先生と生徒だったから。

 少し歩いていると、ふと、悠は私の右手に指を絡めるようにして手をつなごうとしてきた。びっくりして手を引っ込めようとするも、少し強引に指を絡めた。

「せ、先生?」
「嫌だ?」

 少し寂しそうな顔で聞いてくるのが余計に戸惑った。「別に、嫌ではないけど」と、否定とも肯定とも取れないような返事をする。そのままの状態で悠は、少し先のベンチを促してきた。

 そのまま流れで私たちはベンチに座る。手は離されたものの、まだドキドキしてる。

「そんなに硬くならないで?」

 いつもの柔和な笑顔で言われて、そっか、何で変なこと考えてるんだろうと落ち着こうと思ったとき、急に悠が腰に手を回してきた。何か不穏な物を感じる。

 そのまま、目を瞑って唇を重ねてきた。驚いたけど、自然と身を任せるままになってしまう。

 一度唇を離して微笑むも、また重ねてくる。それを何度か繰り返して、頭がおかしくなりそうだった。

「先生、だめですよ」

 そう言ってもキスを止めない。唇が、生暖かくて柔らかかった。

「先生じゃない」

 噛みつくようなキスをしたとき、悠の目は、ギラギラした野獣のようで、妙な魅力があった。

「…悠?」

 またにやっとして、舌を入れてきた。どうしていいかわからないでいると、キスを止めていつものような笑顔で、頭をなでる。髪に絡んで滑る指先が、何だか心地よかった。

「暗くなってきたね、そろそろ行こっか」

 悠は立ち上がり、手を差し伸べてくれた。手を借りると、また指を絡めてきて、そのまま二人とも無言で車まで歩いた。

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