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「おはよう」
次の日の朝、悠は朝礼前に本当に迎えに来てくれた。おはようございますと返したら、「それちょっと堅くて寂しいな」と言われる。
どうしていいか困っていると、頭の方に手が伸びて来た。反射的に目を瞑ると柔らかい手が髪をそっと撫でるのがわかった。
目を開けると、「行こっ?」と助手席を促されたので、なんだか微妙な思いのまま悠とは反対側へ回り車に乗る。車はゆっくりと走り出した。
「自転車はもう一度駐輪場を見て見ようね。誰か通学に使ったかも知れないしね」
「でも、鍵、壊されちゃってるのだとしたら…」
「どこかに乗り捨ててあるかもね。一応朝礼で言ってみるけど、まぁ高校生なんてそんなに素直じゃないよね」
もしもなかったら、また新しいのを買わないとな。
「これから通学どうするの?」
「なかったら今日、お母さんからお金貰ってるし、自転車買ってきます」
「もしよかったら」
ふと、悠がピンクのクマのマスコットが付いた小さな鍵を翳す。形状的に、自転車だろう。
「俺も自転車なくなってさ、でもすぐ使うし自転車買ったんだ。そしたら数日後、駅前で乗り捨てられてたって警察から電話掛かってきたんだ。だから一台余ってる。
もし行ってみて出てこなかったら、明日も使うだろうし、帰り俺のうちまで送ってく。車の荷台につんで清海ちゃんの家まで運ぶよ」
それは確かに助かるけど…。
「いいんですか…?」
悠は頷き、ニコッと笑った。
「放課後、少し待っててね」
結局朝、自転車置き場を確認してみたけどなかった。朝礼で悠が呼びかけてくれても、みんな知らん顔だった。
「災難だったね」
美奈子が心配そうに言ってくれたけど、私はほかのことで頭がいっぱいで、ふぅんと上の空な返事しかできなかった。
「明日からどうするの?」
「取りあえず今日、自転車買ってくる」
「でもヒドいねぇ!誰だろー、本当!」
ぷくっとほっぺを膨らます美奈子は、相変わらず嫌味なしに可愛い。
「心配してくれてありがとう」
「全くさー、人のものを盗むなんて嫌な奴だよね!」
美奈子は憤りながらも美味しそうにお弁当の唐揚げを頬張った。
ふと、美奈子の視線が窓際に走った。ぼんやりと、あの水槽を眺めている。
「あの先生、変わってるよね〜。いきなり水槽持ってくるなんてさ〜」
「そうだね」
「でも綺麗な魚だよねー」
昨日の悠の誇らしげな顔が頭に浮かぶ。
悠は、どうして私ばかりによくしてくれるんだろう。
私はふと、悠の奥さんって一体どんな人なんだろうと思った。
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