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 客席ライトがパッと暗くなった。

 目立つステージ、拍手が飛んで、まるでふらっと現れたかのように気楽に、ひょろっこいのんちゃん、ドラムのパツキンてか白髪みたいな山口《やまぐち》さん、野球部引退した高校生みたいなベース、高畑《たかはた》さんが現れた。

 のんちゃん、しかし前髪邪魔そうだなぁ。バンドマンボーカルありがち。
 そしてバンドマンありがち、やっぱシャツにジーパン。大体TシャツパターンはどこのTシャツかわかんないようなやつ。歳食ってもそれ出来ちゃうのがロッカー。

 今日ののんちゃんは七分丈のシャツの腕まくり。お洒落かよ。バンドにしてはお洒落かよ。なんなの最近七分丈流行ってるの?ちょっとわかんないわ。

 ベースがポロシャツ、ドラムがTシャツなのになんなのその微妙な女子力。私ですらいまTシャツとホットパンツ。

 そんなのんちゃん、ふらっとギターを持って掻き鳴らしたコード。わりと早いやつ。

 あこれ知ってる。前奏中に「ちぇっ、」って低い唸りというか舌打ちみたいななんかいうやつ。

 パンクだねぇ。見た目に反するぅ。なのに歌い出し

「てんちたちの、まどろぃ
アバンギャルろん、そんしゅーかぁ、
僕が見た、まぼろち、
アドるなれ、ばっほっぉーぅ」

 何言ってかわかんねぇ。
 いやのんちゃん好きだから歌詞カードは頭の中にあるけどわかんねぇ言ってねぇ、マイクの調子が悪いのってくらい。

 文楽と違って字幕出てこないよ、手元に台本もないよ。依田、わかるのかとか思って隣を見上げれば。

「かわゆいぃ」

 それかーぁい!

 いやわかる。わかる。わかる…。
 癖になるのもわかるのこの変なショタ声。お宅の|穂咲《ほさき》さんより断然も断然、常にファルセット?てか常に少年声だし常に滑舌悪いのは刺激的だよ多分。

 しかもたまにクる「あ゛ぅ!」とか言う、大丈夫?誰かに一瞬首絞められたの?シャウト?みたいなヤツとかぁまぁ古典芸能にはないよね。

 そしてね、

「Fuck out,あ゛ぅ!」

サビ!サビ!
 今までなんかへらっへらっしてたのに急に凄い反抗期を見た気分?

「おぅぅ、やべぇ、」

 あ依田。より猫背った。
 お前こるぁ、見ないフリしよう気持ち悪い。

「どーもぉども!ぐらしぃありぃぶそにっでっ、今日は楽ちんでってねっ」

 きたぁぁ!
 お手手を上げて言ってからすかさずギターを弾くのがまた。

パンクやぁぁ。
オルタナやぁぁ。

「か、のんちゃん、ダイレクっ…」

 うるせぇ依田死ね。
 最早不能の依田はほっときましょう。あたしはあたしでのんちゃんを観るんだい。

 と思いきや。
 依田、突然にょっきり立ち上がり。ジントニックをあたしの分までがば飲みしやがって。

「えっ、何っ、」

 いきなりがっと、左腕でウエストあたりを掴まれまして依田は右手を上げ、

「ロックンロール!叫びだしたぁぁー!
 ふぅふー!いぇー!」

こ…っ。

「怖い怖い怖い!」
「えぇ?なんだってぇ?」
「怖いよ!どうしたの急にぃ!」
「のんちゃーん!ファッキュー!」
「だめぇぇ!それ言っちゃだめぇぇ!」

い、嫌だぁぁぁ!
関係者と思われたくない関係者と思われたくない関係者と思われたくないぃぃ!
けど無理これ逃げらんないぃ!

 曲の合間、のんちゃん気付いて笑顔で笑いながら手を振ってくれている。

 依田、もう凄く素敵な笑顔で手を振りかえしていた。
 あたしの太ももにてめぇの半勃ちしている股間当たってんだけど。

助けてぇぇぇのんちゃぁぁぁん!

 と凄く叫びたい。けど出来ないやだこれ何ぃ。

「よ、依田ぁ…」
「ん?どーしたの亀ちゃん」
「堪忍してぇ、気色悪いぃ」
「あ、え?」
「うぅ、泣きたいぃ」

 そこで漸く。

「あ、ごめ、気付かなかっ…」
「んのっ!」

腹パンした。
猫背った。

「獣ぉぅぉぉぉ」

 すげぇパンクロッカーな叫び声ですが、流石に依田はあたしにビックリしたらしい。猫背った反動で座り込み、

「すみませんでしたぁぁぁ」

 土下座。
それってさぁ。

「額を擦り付けなぁ、この変態インポ野郎ぉ!」

血が騒ぐじゃない。
酒入ってるし。
ライブ高揚感あるし。

「ははぁ、」

何だははぁて。
江戸かよっ。

 醒めた。
 のんちゃんの哀愁コードが流れ始めた。

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