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銭湯でスッキリさっぱり。
最後は勇咲に「滝行滝行」とか言って頭から熱湯をぶっかけられた。励みになった。
「で」
迎えに行きました。六本木駅まで。
我が師匠雀生は「ふんっ」と言いつつ嬉しそう。
勇咲の師匠花太夫は「おぉ、雀次くん」と後ろ黒い笑顔。二人とも葬式スーツでした。
かの言う俺は。
「あはは〜ししょー達ぃ、おかえんなさーい」
あれからヤケクソで缶チューハイ3本をイッキ飲みして鼻血が出そう。
勇咲は困り顔で「お疲れ様です師匠」と、酒臭いながら対応。
「おまんら何してはった」
「えぇ?ししょー下ネタ?まだですよー」
「ちょっ、依田ちゃん勘弁して俺がししょーに殺される」
「ほほう勇咲。お前があの破天荒を引っ張りまわしよったんか?」
「違います師匠あの人がアホだった」
「貴様ぁ!人の弟子に向かってなんじゃわれぇ!」
「え、雀生師匠、あんたも酔ってる?」
「当たり前じゃバカ。こっちとらあんバカ弟子の偉大なるお父上の死に顔見てきたねん!」
「やっだー師匠下ネタまだだめー」
「うるさいよ依田ちゃん勘弁して。あんたと師匠二人は相手に出来ない俺マジで」
「じゃ、早う行きまっか」
全くお宅の師匠ったら。
「ははー、変態ご一行で入れときましたぜ師匠ー」
「殺すぞ雀次」
「花添えるぞ依田ちゃん」
「あはぁ、痛烈でんなぁ勇咲」
「すんませんすんませんつい言っちゃった」
漫才のようだなこれ。
まぁいいや。さっさと連れてって亀ちゃんにぶん殴ってもらおう。さぁ果たして亀ちゃん、どんな顔するかなぁ。
と、楽しみで仕方なく六本木のビルのわかりにくい店に入る。7階。
「あ、ジャグジー」
ふらっと、カウンター席の真ん中当たりから手を振るひょろいお兄様。SMバーに、Tシャツジーパンとかホント凄い。壁にはギターケース。これは名前を覚えました、マスタードです。
「あ、マスタード!」
「え?」
にっかにかな笑顔で言われさらに、「あ、三味線!」とのんちゃん、曽根崎朔夫《そねざきのりお》さんは反応をしてくれた。
「依田、ムスタングだぞおい」
カウンターから、黒ジャケットの短いスカートを履いた体型が超絶綺麗な女、同居人の亀ちゃんが出てきた。この衣装、確かに燃えなそうだ。
「あー師匠にイサムくん、いらっしゃーい」
「勇咲だよSM姐ちゃん。悪いけどみんなにまずジントニック飲ませてあげてー」
「はいよー。
あ、あの人はのんちゃんです。ロッカーなの」
嬉しそうに言う亀ちゃんに、「ありがとう亀ちゃん」と両手握手をすれば、
「手が滑ってて気持ち悪ぃんだよクソ猫背。ねこいらず食わすぞ」
あぁ、本業スイッチ入ってますねぇ亀ちゃん。
その後師匠達の「ツキコちゃぁぁん」だの「もちょっと強く」だのを聞きながら勇咲とのんちゃんと酒をがばがば飲みました。
「あ、んでジャグジー」
「はい、なんでしょのんちゃん」
「俺さっきツキコちゃんに呼ばれたけど、なんかあったの?」
「あ、はい」
「え?それどーゆー…」
「テンペストだよ勇咲くん。
ぴかんと俺閃いた君の一言に。
のんちゃんバンドさんだから、三味線案いいかなぁって」
師匠達は絶賛苛められている。
「あなるほどねー、え?作曲?」
「というかはい、そうですねのんちゃん」
「えなにこのフラットさ」
「あー、依田はのんちゃんが」
「Sit!亀ちゃん怒るよ」
ふらっと現れた亀ちゃん。疲れているのか汗が滲んでいる。というかそれはいつおっぱい出ちゃうんだい亀ちゃん。
勇咲と亀ちゃんは「あぁなるほど」とか「そうそう」とか「つかツキコちゃんおっぱい出ちゃうよそれ」とか会話してるけど気にしない。
「はっはー!
ツキコ、確か貸し切りだったよねぇ」
「え、はいそうっすよ」
「じゃさー、俺とジャグジーのセッション聴く?聴く?」
「え、いきなりですかのんちゃん」
「うん、バンドってそんなもん」
「いやぁぁ、伝統芸能さん達はどうなの?」
勇咲に亀ちゃんが話を振ると、「えちょー楽しい」と答える勇咲。
亀ちゃん、聞く相手をそこは一応師匠にしてよ。
「え?」
「ししょーさん方ぁー!苛めてあげるからどうー?いいのぉー?」
よく見りゃ亀ちゃん、|鏡月《きょうげつ》をらっぱ飲みしてる。
ここにまともなやつ、いないじゃんと今更ながらに頭が冴えた。
「じゃまず俺俺〜!弾くから合わせてジャグジー」
「え、え、」
ギターケースから黄色いギターを取り出すのんちゃん。
うおぉ、近ぇ。てか、
「かっけぇ」
勇咲の声が背中から聞こえる。
先を越されてしまったようだ。
「あ、君も三味線?」
「いや、俺語りっす」
「マジかー、役者揃いやーんはい、」
突然ギターを弾きゆらゆら揺れ始め、英語なのか日本語なのか最早聞き取れない鼻唄のようなものをのんちゃんは口ずさんでいた。唯一聞き取れた「爆死せよ」。これはおそらく浄瑠璃に向かない。
見いってしまって三味線を構えるのを忘れた。
ちゃらん、と1音?一振り?弾いたのんちゃんは俺を見て「ジャグジー、」と言う。
「弾かないの?」
「え、いや、はい、はい…」
夢心地のまま三味線を取り、構えてみれば。
あぁ、なんだろうな。
音が頭に振るようで。
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