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「えぇ、どーしたのいきなり」
「まぁ勇咲さんの演目にはわりと出てるんで言いますがね。普段出れないような大役なのでね」
「へぇ、意外ですね鵜助さん」

 勇咲も勇咲で年下である我が弟の嫌味に応戦してしまった。しかし、勇咲優勢だな。なんせ弟は。

「意外とは果たして何がでしょう」
「は?」
「あの、勇咲くん」

 耳打ちをする。「鵜助、案外賢くないんだ」と。

 生まれついてから人形ばかりをやって来て、はいはいと父の言うことしか聞けなかった鵜助。残念ながら学校の成績も日本史と国語以外はテスト0点の学力だったんだ、マジで。
 漢検一級、歴史検定一級を鼻にかけるくらいアホなんだ、そいつ。

「まぁ、褒めてくれたようで。なんとかあんたらともやっていけそうですね」

 しかも。

「はぁ?」
「勇咲くん、」

 そいつ、だからマジでアホで、しかも無駄に前向きの、けど気位が高すぎて、「数字と数字の情事なんて変態しか喜ばないでしょ」とか数学の時間にマジで言っちゃって家に帰ってきてしまう中学時代を送ったような子なんだ、春暁は。

「うん、まぁ…っ、仲良く、やろおねっ…」

 明らかに笑いを堪えている勇咲。
 それでこっち見られちゃえば「ぷはっ、」と吹き出してしまうのが世の条理。我が弟ながら話の種に事欠かない。

「なんか感じ悪いなぁ、お二人。
 ま、なんとかやりますよ、僕もプロなんで。
 じゃ、お邪魔しましたね」
「はぁ…」

 鵜助はふいっと立ち上がり、元いた場所に素知らぬ顔で戻っていった。

 なに今回。
 不安しかないけど大阪公演。

「なんで来たんだろ鵜助」
「つか…、
ふっははは!ちょ、笑い堪えるの必死だったのになんで先に笑うんだよ依田ちゃん!」
「いや我が弟ながらなかなかな人柄だなぁと」
「依田家やべぇな、ぜーいんなんか抜けてるくせに気が強い、厄介〜ぃ」
「え、ごめん」
「あー、でもなんかわかってきたよ依田ちゃんのこと。あんたわりかしお人好しだな」
「そうかねぇ」

 それから蟹蔵が来るまでは。
 ひたすらに弟、春暁について盛り上がったのだった。漢検と歴史検定の話は笑ってくれた。

 しかしまぁホントに不安だが、忘れて今は飲んじゃえと、わりと楽しく勇咲と過ごした。

 いずれ来るその時まで、それぞれの業を煮やすしかない。俺には今、それだと知った。

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