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「うっわぁー…」

 銀座の和食居酒屋にて。
 蟹蔵は結局2件目からの合流となり、現在19時半くらい。まだ一件にして焼酎4杯のつまみに、勇咲に今日の顛末を全て話してしまった。

「俺その場にいたらマジで首くくってるわ今頃。やだー、なにそれ怖い!」
「まぁね、わかるよお宅の師匠の気持ちも。俺多分全体的に嫌われたよね」
「昨日の快楽的接待の意味。全部ぶっ壊したね依田ちゃん」

 先程から勇咲が指をとんとんとんとん、たまに袖から何かを出そうとしてやめている。なんだろ、メチャクチャイライラさせてしまっただろうか。

「いやぁ、まさか初音さんと意見が合わないとは思わなくてね。息が合わないってやつぅ?でも丁度良いよねこの際」
「いやまぁあんたの無頓着さと芸道変態性と度胸は買うけどねぇ、俺的にあんたとやれてラッキーだし。
 いや雀三も最近ちょっと息合ってきたしぃ?よかったんだけどね、ただねぇ、やっぱタバコ辞めよって決意する位ではないわけであるよ」
「そうであるか、
てかなるほど、だから君さっきからとんとんとんとんうるせぇのか!タバコってそんなに違うん?」
「当たり前じゃん、タバコ声で八重垣姫は語れないよマジ。蟹蔵に聞いてみ?」

 そうなのかタバコ。

「まぁ俺は全員の決断は間違ってねぇと思うよ。まぁ確かに上手ぇけどさ、正直最近兄さん、ちょっとねぇ…。だからまぁ、依田ちゃんもたまには良いことすんなーとか思ったよ」
「え、ありがとう。褒めてくれるの?」
「半分ね。半分はまぁ…
ちょっとやっぱ俺ら飲みに行くクセにあんま組まないじゃん?だからまぁねぇ、何を探してんのか気になるな。また浮気野郎に戻っちゃっても仕方ないじゃん?」

 それってなんだかんだで。
 穂咲、雀次を然り気無く尊敬してくれてるのかしら。嬉しいような、なんか違うような気がしてしまう。

 普通ならこんなこと、後輩に言われたら喜ぶべきなんだろうが。

「いやまぁね、はっきり言って俺の我が儘だよ勇咲くん。俺多分心の中で浮気してたんだよ」
「へぇ。やっぱ前の?」

 それには答えなかった。
 わかってる。
 勇咲と組もうが穂咲兄さんと組もうが多分この欠落は埋まらない。

 そしてそんなことに拘ってるようじゃ全然ダメ。誰とでも最高な舞台を作れるように色々な太夫と組んだのに、演目はこなしたのに。結果はこれだ。

「ま、まぁ。そんな暗い顔すんなよ。俺みたいな若輩者が言っていいのかわからんけど」
「うん、そうねぇ」
「おやおや見知った顔で」

 ふと、後ろから声が掛かった。
 聞き覚えはある声だった。しかし意外すぎて俺は最早その声に振り向くことが出来なかった。

「げっ、」

 振り向いた勇咲が言う。

「弟くん、奇遇だな、」

 あぁやっぱり。

「あらあら揃いましたね廿四孝。お二人方、密会ですか?」

 軽い調子で言われるそれには少し挑発を感じ、流石に振り返った。

 狐顔の、笑い笑窪が印象的な天パ頭の、しかし俺と違ってしゅっと姿勢の良い我が弟、高山一門人気急上昇な若手、鵜助(本名 依田春暁《よだしゅんぎょう》)が、悪気もなさそうに図々しく勇咲の隣のカウンター席に座り、ワイングラスを傾けていた。

 嫌味のある男前。こいつはパンフレットの写真しか顔が知れ渡らないクセに、奥様方がファンクラブを作るほどに男前だ。
 しかしこいつの嫌なところは、それをわかっていて出番終わりの楽屋公開時間にアイドル対応をするようなやつである。

 しかし本当は。

「あぁ兄さんこの前は喪主をすっぽかして頂いてありがとうございます。お陰で兄さんが先に死んでしまったときの葬式手順の練習が出来ましたよ」

 胡散臭い笑顔で俺を見もせずに春暁はそう言った。
 そう、はっきり言って嫌な奴なのだ。

「そうか」
「まぁ俺が先に死んじゃっても、家を出されたあんたとは育ちが違うんでご心配しないで頂きたい」
「ちょっと、なんか嫌な雰囲気だな」
「あ、ごめんなさいね勇咲太夫。いやぁ僕もう疲れちゃってねぇ。たまたま一人で飲んでたら聞き覚えのある安定感の若い声がしたのでねぇ、ついつい覗いちゃいましたよ」
「…未熟ですんませんな、王子様、」

 雰囲気悪っ。

「鵜助、その節はすまないな。
 なんせ俺はまぁ、最早あの人の息子でもなんでもないんで、そんなのに行くくらいなら芸道を走ろうかと考えてな。先代もそう言ったことがあったしな。
 ところで君はどうだい最近。八重垣姫なんて大役勤めるなんて、流石は六代目のお力。ずいぶん成長したな」
「はぁ、それなんですがね。
 左遣いに昇進してみて初めての大役なので、まぁ、意外とひよってますよ」

 あら。
 案外素直だね我が弟。

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