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「…師匠、俺は亀ちゃんとは、良い友人なんです」
「しかし大の大人の男女が衣食住を共にしているなら」
「二人とも同性愛者なんで」
「えっ」

 言ってしまった。
 師匠は酷く驚いた、というか心臓が止まっちゃいそうな感じで息をひゅっと呑み、「ひぇっ、」と漏らした。

 ですよね、そうなりますよね。

「あ、はぁ、へ?」
「師匠落ち着いてください心臓に悪かったのは承知ですが…」

 それから俺は、亀ちゃんと住み始めたきっかけやら関係やらを師匠に洗いざらい話すことになった。
 師匠は時折「ひぇっ、」だの「ふぅ、」だの、本当に死んじゃうんじゃないかと思えるような反応を返してきた。

 確かにご老人には刺激的すぎる話だった。ご老人には優しい俺としては凄くいたたまれないが、致し方なし。なかなか、止めを刺しに襲いかかっている心境である。

 命からがら話を聞き終えた師匠は「ふぅあっ、」と、どうやら呼吸を思い出して頂けたらしく「…紅、葉、」と、酷くしゃがれちまった声に咳払いをした。

「はい、すんません」
「いや…その…なんだ、謝ることでは、ないのだが」
「はい、すんません」
「マジか」
「マジです」
「ふぅん…」

 暫し師匠は考えるような顔付き。
 言葉をどうやら考えているらしい。
 これは俺が何か声を掛けるべきか、どうか。

「…儂はあれかな。
 正直な、血の繋がりある息子、娘がいないから、こんな時、親としてわからんなぁ…」
「…師匠」

 確かにそうなのかもしれない。
 師匠の家はうらさんの持病故に、子供がいない。だから俺が師匠の家に入れて、そこから漸く弟子を取り始めた師匠には、俺は多分大きな存在であり、同時に厄介ではあるだろうと感じる。

「…しかしだなぁ、だから、という傲慢さで儂が語るなら、正直お前も依田家を見て、婚姻たるのはこんなものかと思っているのかと」
「いや、まぁ…」
「儂はほれ、好きな女と、苦難あろうが夫婦になったわけやから、」

 言いながら師匠は少しはにかんだ。
 それは凄く、14からだが家に入れてもらった出会いから、を考えれば可愛らしくも嬉しい事情だけど。

「俺、亀ちゃんにはなんだか、俺の家を見て欲しくなくて。あまり巻き込みたくはないんです師匠。
 亀ちゃんと、こっち戻ってすぐに、亀ちゃんの家のことを聞いたんです。亀ちゃん、親に捨てられた子だから、なんか、嫌だなって」
「…うむ…」
「凄くね、遊び人だったらしいんです、お母さん。だから、男嫌いになっちゃったみたいで」
「せやかてお前とおるやないか」
「まぁ、はい…。身寄りのない亀ちゃんには、あのマンションは生活の糧で」
「儂からツキコ…えっと亀田さんに話そうか」
「いや、」

 だからね。

「だから、それはホンマに」
「お前はなんだか昔から不器用な男だなバカ弟子」

 何故か師匠は暖かい、きっとこれが親の顔なのだろうという感じの穏やかな表情。

「言えるかバカ弟子ぃぃ!仮にもこっちとら、先代鵜志殿は兄弟子じゃわれぇぇぇ!」
「えっ」

 突如、鬼のような顔に一変。まるでガブだ、日高川の|清姫《きよひめ》だ。それ、人形だから許されるんやで師匠。

「お前がゲイだなんて口が滑っても言えるかアホぉぉ!あの女清姫やで!儂に預けたせいでとか、怒られるわわれぇぇ!」
「いや違いますから師匠!いまガブ顔してるの師匠もですから!」
「うるさいわぁぁこの引き籠りぃぃ!」

 師匠、立ち上がる。
 なに、蹴られるの?俺。

「ええか、貴様なぁ、自己完結もほどほどにせぇ!
 儂がツキコちゃんに話付ける。お前はいっぺん回りを見ろ回りを!だから引き籠って稽古場ばかりにいるんやわれぇ!」
「え、話付けるてなによぉ、」
「婚約者のフリして儂とお前と、お前ん家に行く約束やぁ!」
「なにそれぇぇぇ!」

 いや考えなかった訳じゃないけど。
 だから先手打って悲壮感出した俺の努力。
 絶対亀ちゃんブチキレるに決まってんじゃん、俺に。

「せやから嫌やてぇ!」
「うるさいわ、貴様そんな我が儘言っとると破門するで破門!」
「いや、えぇぇ!」

 師匠、腕組みをして「ふん、」と言う。
 この人なんでいざってときこうかなぁ。イライラしてきたぞ全く。

「若造が。見とけ儂の破天荒を!」
「は、」
「大体口答えされる謂れはないねん、っはぁ、ええんやお前どうせ儂の子や!」

 せやけどぉ…。

「あー、言いたいことは、伝えたいことはぎょーさんあるがそこは拾え弟子!お前の仕事や!
 ええわ亀田さんにぶっ叩かれる覚悟で」
「ぶっ叩かれたいだけでしょぉ、師匠!」
「今日お前ん家に行く。あの清姫もお前の同居人も黙らしたるわぁぁ!」

 なんだか。

「怖いわ師匠ぉぉ!」

 勝手に決まった我が家の事情。
 もーええわ。
 半ばヤケになりそれからすぐに我が家へ師匠をお連れした。

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