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 それからあっさり別れ、23時近く。

 オーナーの家に那由多を迎えに行き、次の日普通に出勤しようと思えば。

「なっ、」

 朝イチ。
 綺斗が店の前にいた。
 今日はシャツだがグレーと青チェックの白シャツ、ベージュのスキニーという案外男子な爽やかさで。

 しかし。

「あ、おはよぉございまぁす、御波さん」

 非常に他人行儀対応だった。

「お、おはよぉ…」

 唖然としていると奥から高崎が「きゃー!綺斗くん!」とハイテンション。

 え、なにこれ。

「あ、ちるちゃんさん。お願い出来ます?」

 何ぃ?

「ドンときなさーい!」

ナニソレ。
ナニをお願い?

 ハイテンションちるちゃんさん、高崎満と昨日までの俺の浮気相手、|名津葉《なつば》綺斗くん。まさかの俺、高崎と穴兄弟になる疑惑っすか?

「さっぱりって顔してんなお前」

 低ーい、いつもならとても好みの声が真後ろから聞こえて来てビクッとしてしまった。

 ぎこちなく振り返ればやっぱりオーナー。怖い、恐るべし。

「えっ、何、」

 バックを取られた俺ホールド。どうしたらいいのこれ。

「カラーリングとカットだってさ。お前なにしたの」
「えっ、えぇぇ!?」

あいつに?
なんて。

「やめなさい綺斗くん!そいつ見てわかるよね、センスがないでしょ!」
「はぁ?」

うおっ。
来ました、最近の若い子最大の威嚇、「はぁ?」が。

「あんたセンスないからちるちゃんさんに昨日お願いしたんですよ団長。俺あの役は金髪で行こうかと」
「まままマジで言ってんのかお前ぇ、ついでにパッ」
「お任せで」
「何ぃ!?」
「はぁい!トレンド!おしゃれになるよぅ♪」
「やめなさい綺斗、教育に悪」
「まーまー、もういいじゃんうるさい男だなお前。てか元気だな朝から若いな。なんなの」

 オーナーにたしなめられた。
 そうこうしてるうちに綺斗は高崎の前に座り、髪を委ねて洗われ「手つきが優しくて気持ちぃ」とか言ってる。高崎も「ふふっ、」と満更でもない気持ち悪い。

 唖然としてるうちにお客は入り、気付いた頃には、
白っぽいパツキンで肩ストレートの綺斗が出来上がっていた。前髪はふんわり。

「なっ」

 なんだよ高崎。
 センスあるじゃねぇか。

「可愛く出来たでしょー」

 いつもなら調子こくなと言いたいところだが。

「…元がいいんでしょ。ウチの主役だし」
「あら、」
「ふっ、」

 軽井沢さんが笑う。

「お前も損な性格だよね」

そうかもしれない。
けどいいや。

「綺斗、」
「…なんですか」
「まぁ、その、なんだ。
 多分色々あいつや俺を気遣ってくれたんだと思う。ありがとう。わかったと思うが…まぁまだあいつが弄ったライトやら音やらその…見れてないが、あいつ、色弱だし難聴だ。ガラッと、今日行って変えるかもしれない」
「…でしょうね、そんな感じしました。夕日が青だったり。
 でも俺は、それはそれで良い気もしましたよ」
「あそう…まぁ、」
「俺役者だから。任せます」
「うん、ありがとう」

 なんだかんだで一番変わらなきゃならないのは俺だ。

「なんかカッコいいじゃん、御波ちゃん」
「…まぁね」

 そう素直に言われちゃうと。

「まぁね〜、」

 調子に乗るのが俺だ。しかしまぁ。

「頑張るかぁ、マジ」

 どうやら気合いを入れねばならないらしい。

「昨日一緒にお前を待ってるとき、那由多くん色々話してくれたわ。ま、お前だけの問題じゃないよな」
「え、那由多?」

 そんな雰囲気全然なかったのに。

「あの子なゆたってのかー」

 面白そうに綺斗も言う。
 え、なに気まずい。

「まぁ頑張れ頑張れ、はい、おつりな綺斗くん」
「えっ、いや」

 帰ろうとした綺斗にオーナーは昨日の2000円を返そうとする。

「なんで?」
「多いから」
「いや、まぁ無理言ったし正直ここ料金わかりにくいです、軽井沢さん」
「え、そう?」

 これは看板修繕、必要そうだな。
 気まずそうに「わかった」と言いつつ、2000円をひとまず握らせたオーナーに綺斗は、

「てか俺作ります。大道具出来るし」
「あっ」
「確かに」
「…そっか、上のか。じゃお願いするわ」

 にかっと笑って親指立てるオーナーの快さに唖然としつつ、綺斗も間を置いてにかっとし、「はい、」と言って店を出ようとするが。

 去り際彼は振り向き、「雨祢くん」と言った。今日初の雨祢くん。なんだろ。

「ん?」
「後悔しないでねっ、」
「なっ、」

この期に及んで。
えげつなく可愛い。

「へっ、」と笑うオーナ。

「ありゃぁ本気で食えねぇなぁ」
「いや食えました」
「あそう。アホだな。那由多くんは食えねえくせにな」
「てかぁ、みんななんでその〜、昨日とか…那由多と俺の色々をなんかわかってんです?」
「はぁ?」

ありゃ。
若者じゃなくても使われたぞこれ。

「自覚ないの御波ちゃん」
「えっ」
「お前案外わかりやすいぞ」
「えっ」
「熱あるよな〜」

 言われてみて。
 驚愕と同時に冷めちゃった。ヒヤッと。

「怖っ、怖っ!」

食えないわ。
食えないわぁ…。

 「けっけ、」「あはは」に悪寒が走り、一人仕事に打ち込むことにする。

 恐るべし床屋。また俺はひとつ、抱えることになりそうだと、鏡に写る自分と、綺麗なハサミを見て思った。

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