6


 出遅れて店に入れば、綺斗は真っ先にオーナーの元に行き、ちょいちょいとオーナーの長身を手招きのように呼び寄せる。

 「ん?」とオーナーが顔を寄せれば、なにやら内緒話していて、聞き終われば顔をまじまじと見るオーナー、見上げる綺斗。首を傾げてオーナーはチラッと俺を見てから高崎に、「ちょっと」と何か俺に背を向けて話していて。

「じゃ、よろしくお願いします!」

 と、にっかにかな笑顔でペコリと一礼して出ていく綺斗。

 え、何があったの一瞬にして。そして何よそれ、俺の心がキモいやんなんか。

 だが高崎が、「りょーかい、」とオーナーに言えば、俺はオーナーに見られ、ふと笑われ、「お前なにまったく」と言われてしまった。

「へ?」
「最近の若い子は怖いねぇ…」
「ごめんなさいねっ、御波ちゃん!貰っちゃうから!」
「は?いやだから那由多はやめた方があんたの身の為だよ殴るよ?」
「そうだねぇ…」
「え、なんなのキモいなぁ」
「ひどぉい!」
「まぁお前の悪癖これで終了ならえーわ。予想以上にお前がダメなやつなのもよーくわかった」

 え、俺なぜ低評価になった?
 あいつ何言ったんだ、マジ。

「え、何?気持ち悪い」
「俺は明日まで気持ち悪い」
「俺は明日からハッピー!」
「なんで?なんで高崎さんそんな感じ?」

 全然わからんけど。

「あそーだ。お前今日上行かないだろ?
 俺が那由多くん預かるわ」

 上とは、3階、劇団である。

「…なんで知ってるんです?ちょっと待って綺斗どこまで言ったのあんたに」
「綺斗ってのか。ふうん」
「え、え」
「まぁ気を付けろ、身の振り方!あまり酷いと元奥さんにマジでチクるからな」
「あぁぁぁ、それ勘弁!」

 なんだか凄く楽しんでますけどこの人。
 やだぁ。なんかやだぁ。怖いよう。

 結局それから客はいつも通り、まばらで。
 いっそ混んでくれた方がこのモヤモヤ、取れただろうに、残り3時間、イジられながらいつも通りな感じで過ぎて。

 店閉め作業終了して3人で店の裏口でタバコを吸い始めた頃、綺斗が現れ、思わず煙を副流煙まで全て吸い込み一人噎せて死にそうになった。

 しかしながらオーナーと高崎は「じゃ、先帰るわ」と、いつもの雑談を全てすっ飛ばしてニヤニヤしながら二人、帰りやがった。

 綺斗と二人きりになり、この気まずさ。最早俺に残された道は『不機嫌』だった。

「…普通来るか?」
「いいじゃん最後だし」
「お前オーナーに何言ったの」
「別に。予約」
「なんの?」
「床屋なんて髪切る以外ないじゃんあんたじゃあるまいし」

 確かに。
 俺の時、こいつは性的予約を入れてきてた、侮れないぞ。そしてある意味それもきっかけで出会って主役抜擢だしな。いま思えば絶対に計算だ。大体、

「ちょうど面接しようかなぁと思って髪切りに来ました、そしたら素敵な俳優みたいなお兄さんがいたのでつい」

 って俺はアホか。アホ丸出しか。そんでのこのこはい不倫〜。ホントセンスがないわ。
 って自己嫌悪に陥りながら。

「ん、ちょっと、」

 唇柔らかすぎる。俺が切った髪の後頭部を柔らか〜く掴んで何熱く舌まで入れてチューかましてんのっ、俺。

 んな床屋と劇団の裏口で。センス皆無じゃない?

 照れたように色っぽく、しかし不機嫌に見せようと俯いてしまうのもえげつないが可愛らしく色っぽいなぁ。

 「お前が悪いんだよ。床屋なんて言った罰だよ」とかゲロ甘に微笑んじゃうくらい。なんなの俺。見事に雄だね。

「雨祢くん、」
「何?」
「…早く行こ」

 しかしそう言う綺斗は少し切なそうな表情で。それに気付いて「ん?」と聞いたときにはもう、

「バレちゃうでしょ」

とか凄く生意気な目付きで言ってきてえげつない。

「…はいはい」

 全く若い子って怖い。中年かな俺。昨日そういや那由多になんて「おっさん」とか言われたわ。あれ軽く傷付いたわ。

 最早それから打撃レベル、いや、稲妻、いや、天変地異、いや、別天地開発レベルのたっぷりどっぷり濃厚な刻を過ごしました。

 俺もまだまだ負けてませんね、なんせ昨日からなんやかんや溜まりすぎてて、別の場所から出てきちゃわないのこれ?レベルだったんで。

 俺これを毎日我慢とか気が狂っちゃうかもとか考えてたんだけど一回り歳の違う綺斗くん、「気がヤバイ」とのこと。

 そんな?

 確かにね。二人でこう、終わったあとのコンドームの中身見て自分でも驚愕でしたよ。もう「濃っ、多っ、」ってね。綺斗なんかベッドの中で

「いや見せんなマジわかるわ怖いわ」

 とかげっそりしてましたわ。
 若いのにダメねぇ今の子。ホント耐性がない。持久力がまずない。

 しかし。
 ベットに座ってタバコを吸って煙をぼんやり眺めていると、ふと背中に、覆い被さり凭れるように抱きついた彼は言う。

「…一回くらい、誘って欲しかった」

 耳元で言うそれは凄く、切なそうで。
 裏口での表情を思い出した。

「嬉しかったんだよ、忘れられないやつやるよって」
「…綺斗?」
「まぁ、つまらん話だねぇ」

 なにそれ。

「可愛いこと言うじゃん」

 そっからタバコを消し、振り向いて押し倒し、もう2回くらいヤっちゃったのも最後。そう思えば確かに切ないような。

- 13 -

*前次#


ページ: