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「百合枝ちゃん、楽しそうね」

 隣に座って、一緒にそれを観ながらユメちゃんに言われました。

「いや、懐かしいなぁって」
「そうね。百合枝ちゃんはあれから初めてか、こうやって観るの」
「うん」

 舞台では何度か観たことはありました。
しかし、例えば楽屋にしてもですが、こういった舞台裏を見ることは、初めてでした。

「ちょ、たんま。
 アヤト、ちょっと緊張してねぇ?」

 トキくんがふと、男の子に問いました。

「あ、はい。
 すみません、いや…雰囲気が」
「若いなぁ。ま、確かにな。お前2回目か次で。
 お客さんはもっといるんだから、構えるなそう。ましてや主役なんだから」

 不安そうな男の子と、陽気に言うトキくん。劇団の練習って、果たしてどうなのだろうと感じていましたが、大学サークルの方がもしかすると殺伐としていたような気がしました。

「多分ね、百合枝ちゃん」

 ふと、ユメちゃんが話しかけてきました。

「はい?」
「この台本、雨祢の親戚の…那由多くんが書いたんだけどさ」
「あぁ、夫も言っていました」
「あ、そっか、夫、か。
 もしかして百合枝ちゃん、雨祢と別れた?」

 ひそひそ話で言われた一言に、私はこくりと頷きました。

「やっぱりかぁ。ごめんね変なこと聞いて」
「いえ」
「まぁ、なんとなくお互い悪い感じではないのかなという雰囲気だから聞いてみたんだけどさ。あっさり頷いちゃうし」
「まぁ、そうですね」
「多分この台本…。那由多くんと、雨祢のなんて言うんだろう、中間を捉えたのかなって」
「え?」
「だから百合枝ちゃん、ここに来たのかなってさ。内容がね」

なるほど、つまり…。

「私の客観点が必要なのですか?」
「そうだね、役者的には」
「なるほど…」

 ならばと思い、内容をじっくり見てみようと考えながら見物しました。

「俺はだから、ここに来たんだよ」
「そんなのは押し付けだ、構わないで欲しい、ちょっとたんまです。
 トキさん、俺的にはここ、一度一息で言ってもらってもいいですか」
「ん?いいよ。なんか浮かんだ?」
「なんて言うんですかね…。
 俺の想像ですがなんかね、ハルオは多分捲し立てちゃって、カナタはそれに困惑、みたいな雰囲気、とかでやったら凄くこう、地味に立つ気がするんです」
「確かにアヤトの雰囲気だと、そっちのが悲壮感に行くかもな。じゃぁ…」

 台本を持ち直してトキくんは、少し距離を詰めて語る、「俺はだからここに居るんだよ」と。

「そんなの、押し付…ふっ、
 ちょ、たんま。トキさん怖いよそれ〜!」

 男の子は突然お腹を押さえて楽しそうに爆笑しました。それにトキくんは「え?え?」と疑問顔。

 男の子の笑い顔が、あぁ、やはり少し那由多くんを連想するなぁと感じました。

「掴み掛かるやつだよそれ〜!」
「え、そう?」
「確かにトキ、二人のシーンにしてはちょっと近いかもよ」

 ユメちゃんが声を掛けると「ありゃ、え?」とトキくんは後頭部を押さえました。

「だって多分、ハルオは勘違い野郎かなと思うんだけど。
 エゴとかでなんか全部捨てちゃうようなさ。困惑させるならそれくらいやっちゃうかーとか思ったんだけど」

あ、なるほど。
理解してきました。
この台本もしや。

「多分世間知らずな、どこ見てるかわからんけど心理に辿り着いちゃうような…綺麗な変態みたいな、雨祢みたいなやつじゃないの?」
「あっ」
「あっ、言っちゃうのトキさん。奥さんの前で。しかもセリフ間違ってますよ」
「はい?」

 急に出てきた私の存在に、一瞬私は混乱しました。そこへ、

「誰が変態なんだよトキ!」

 と、話し終えたのか夫が現れ、台本で軽くぱしっとトキさんの頭を叩きました。

「あ、団長!」
「で、なんだって?主人公お二人さん」
「いや、雨祢あの…」
「丁度良いや団長、そこ、トキさんのセリフ!団長やってくださいよ!」

 男の子は無邪気にそう夫に言いました。それを聞いて「ん?」と疑問詞。

「いや、アヤトがさぁ、俺のセリフちょっと捲し立ててみて?とか言うからそんな感じでやったらさぁ、爆笑しちゃったんだよ」
「あー、トキちょっとヤンキーチックだよね」
「え、うそぅ」
「と言うかチャラそう」
「なっ、」

 夫は「確かに」と、男の子に言ってから、トキくんを見つめれば、トキくんは黙って私の隣に座り、「うーん」と、台本を持ったまま夫と男の子を眺めました。

 ふぅ、と一息吐いて夫は、「俺ヘタクソだってわかってて言ってんだよなアヤト」と男の子に言いました。

「うん、だから素でよろ」
「えぇ、じゃぁ前のセリフから」
「はいはい」

 男の子(多分アヤトくん)も一息吐いて役者顔で。

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