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嵐に川が濁り氾濫するときは茶色、いや、もう少し暗い色をしているものだと、垂れ流されたテレビをぼんやりと見て雪は思う。
台風24号「チャーミー」は名前に反している。あの名前は果たして、誰が名付けるのだろうかと、低気圧の頭痛に蟀谷《こめかみ》を揉む。
「なぁ雪」
シンクの向こう、リビングのテレビの前のソファーから声がした。こちらからは染めたてだろう、茶色か、金かは曖昧な色の頭部しか見えない。
「…何」
「台風やべぇよなあ、」
勝手にちゃぶ台の上に広げたチータラをつまんで缶ビールを飲みながら兄、|森山浩は無邪気な口調、しかし濁ったような薄笑いで振り向いた。
兄が突如雪の家に現れてから、3日は経過していた。
浩の身元引受人は不明だ。だがろくなものではないのは兄に直接聞かなくてもわかる。
陽一が把握していないのであれば「青柳」の手練れではないだろう、多分。
母は母で到底、身元引受人など不可能だが、この男なら平気で病床に耽った母に集るだろう。
正直この兄に関してはなんだっていいが、結果はこうして身寄りなくここにいるのだとすれば、母があれから気に病み、入院して数年だということすら知らないのかもしれない。
「あのさ、浩」
「お前ってさぁ。
わりといーとこ住んでっけど仕事なにしてんの?」
…まず言語すらなかなか交わせない。
「…それなんだけどさ。俺今日から仕事出るから」
「は?もう昼近いけど」
「うん。昼なら適当にあるもの食べて。少し作ったから。仕事、夜なんだ」
「へぇ、なに?売り?」
貧相すぎてイチイチぶっ殺したくなる。
「母ちゃん似だよな、お前」
「…あのさぁ、浩」
「あんだよ、」
浩の少し荒げるような声、睨むように見られるのは未だに雪の脳にある酸素を脅迫観念に変える。
浩はそれをわかってか、「ひっはっは!」と異常に笑って雪のハイライトを勝手に咥えた。
それなら、まだましかもしれない。
雪は料理を終えたキッチンからリビング、ソファーに座ることもなくただ投げられたタバコに手を伸ばし、一本取ってベランダに行こうとするが、タバコを吸う浩がぼんやりと、「あ、ベランダ?」と聞いてきた。
「…どっちでもいいよ」としか答えられない。雪のライターで火を点けた浩は「ほらよ」とライターをちゃぶ台へ投げるように置く。
ライターを受け取った雪が今度こそベランダに出ようとすれば一口で兄は噎せていた。長い獄中生活の後では確かに、そうなるのかもしれない。
「…大丈夫?」
雪の感情はさして入ってない。
浩は吐き出しそうなほど噎せている。そのまま酸欠で死ねばなぁと雪はぼんやりと思うのだが、治まりかけて涙目でもう一口を吸う兄は「久々だわっ、」と言い捨てた。
構いたくないと思うがもうなんだか面倒だと、雪もそこに座りタバコに火を点けた。ヤニクラに眉間を揉んだ浩が「強ぇなこれ」と漏らす。
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