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十三回忌を満12年でやると言うのは、13年目の今年に入ってから知った。
それどころか三回忌、七回忌もやるべきであり、どれも亡くなってから数えの2年、6年でやるのだそうだ。
誰もやらなかった姉の十三回忌の存在を知子だけが覚えていてくれたし、雪ももしかすると『十三回忌』という存在は過ったのかもしれないが、結果一年遅かった。
十三回忌からはどうやら、大体はその世帯のみでやるようなものらしい。世帯で誰かが死んで12年という体験をした者でなければ、確かにピンと来ない行事だろう。
そして、陽一にとっては知るのが遅かった事柄だった。
真言宗だ天台宗だ、陽一にはそんなものすらよくわからない。ただ、そこは姉の焼かれた骨が埋まった場所でしかないけれど。
陽一は一人、姉の遥が埋葬された墓場に来ていた。霊園の前で売っている切り花を抱え、姉の墓に陽一は一人手を合わせる。
姉ちゃんごめんな、そんな法要が本当はあったらしいんだ。笑っちゃうよな、全然知らなかった。姉ちゃんはどうかな?
姉ちゃん凄いよな、俺もう30だ。とうに姉ちゃんを越えちまったよ。
姉ちゃん。
これくらいにして陽一はさっさと線香を焚き手を合わせ、毎度来る度に「また来るから」と心の中で唱えるのだ。
姉が死んで満13年目、10月14日よりは少し早い、9月最後の日曜日、仏滅の日を陽一は知らない。だけど、それでよかった。
姉は生きていたら、そうか36だ。結婚して子供がいただろうなと思い耽る。
仲は良い姉弟だった。ただ、世間一般とは恐らく、かけ離れた家だったのだと思う。
陽一の家庭は、小五のときに父が仕事場の階段から落ちてしまうまでは母もきっと笑っていたし、姉も普通に思春期だとか、そんな風に過ごしていた。
父が死んで憔悴していく母は結局心を閉ざしたままだった。姉は大学を行くことも諦めたし、極端に家にいなかった。もしかすると児童ポルノに引っ掛かるようなこともやっていたかもしれない。
生活は困窮した。生活保護だって受けた。
姉が家に帰ってきて、疲れているなと感じることもあったけど、自分にも母にも微笑んで接していたように思うな、と思い出す。
車に乗り込むと運転手の若造が「早いっすね」とタバコを吸っていた。
「悪いな、待たせた」
「いえ、いいすよ」
車を走らせて無言が続く。
拳に新しい傷がついている。
朝方陽一を拾ったドライバーは「雪さんっすか」と然り気無く聞いてきた。
「大分やっちまいました?親方に怒られません?」
「いや、壁を殴ったよ」
「下手すぎますけどなんでっすか」
「雪は殴ったら俺の手がごっそり逝くだろ」
「はぁ、どうっすかね。俺会ったことないんでなんとも言えないですけど、その人ホントにヤクザ向いてるんすか?」
「いや、ヤの字も知らない普通の子だよ」
バツが何個ついてるかはわからないけど。
「なんでなんすかねぇ、陽一さんで良いっすよね」
「まぁ…愛情だよ、多分」
そんな会話を、していた。
「十三回忌って、一人なんすか?」
若造ドライバーは朝のような、トーンだった。
「まあ、世帯のみらしいぞ。十三回忌からは」
「へぇ」
「ホントは去年やるもんらしいぞ」
「ん?」
「満12年目にやるんだってよ」
「なんで?」
「死んだ年を1年と数えるらしい」
「去年って…雪さんが見つかったからとか」
「いや、単純に今年知った。ホントは3、7もやるべきらしい」
「誰も言ってくれなかったんすか?」
「そうだな」
それに不服な沈黙が流れ、「ありえねー」とドライバーは言った。
「なんかなぁ、どうなんすかそれ」
「まぁ、仕方ないだろ」
「うーん…」
「そもそもヤクザにそれを言ったって仕方ねぇよ」
「まぁ…」
「ありがと。お前くらいだな」
「…陽一さん、」
ふと、ドライバーは声を潜めた。「雪さんの兄貴見つけて組抜けするんすか」と。
「…それも良いけどな」
雪が次期頭主を拒むだろうし、何より出来ない。組はそうなると、雪を立てるだけ立て、分裂するのが目に見えている。
だから、俺にも白羽の矢が立つのだろうが。
「多分、辞めらんねぇよ」
現頭主青柳は、だから陽一の望みを叶えてくれようとしているのだろう。
不穏分子なく雪を当主に仕立て、その裏で陽一を動かそうと。
雪が拒めば敵は納得してあっさりと陽一を立てるか。
そんなわけがない。
母さんどうして俺を産んだの。
義父はそれを本当の幸せだと、多分、思っている。
果たして、誰が綺麗事を言ってるんだろうな。
多分、生き残ったやつ、全員だ。みんな、自分へも相手へも、酩酊している。
ぼんやりと陽一は姉の笑顔を思い出す。
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