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ひとしきり沸いてミカンをミキサーに掛け、お手製のサワーで乾杯すると、のんちゃんは肩から下げていたギターケースを下ろしてゆっくりと開け、「見て〜」と言った。
「新しい彼女!」
テンション高く嬉しそうにのんちゃんが言うそれは、ギブソンではなくギルドだった。
「きゃー」だの「カッコいい〜」だの従業員が沸いていてのんちゃんに近寄るも「はっはー!いいでしょ〜!」とホントにマイペースで楽しそう。
オレンジ色のギルド。いくらしたんだろう。バンドさんにそれを聞くの、ちょっと気まずい。
しかしのんちゃん、ギルドを構えて抱きしめ、
「今年頑張ったからさぁ、自分へのご褒美!7万!」
と言った。
「これで一人でも弾き語りが出来るよ〜」
なるほどなぁ。
「のんちゃん、なんか弾いてよ」
ミカンサワーを飲みながらリクエスト。
のんちゃんは照れ臭そうに「うん!」と言ってアンプを繋ぎ、チューニングを始めた。
しばし考えるように宙を見てからにやっと笑い、「じゃぁ、Escape Rock」と言った。
あ、それ凄く古いコアな曲。
ポップな音調だったと思うけど。あれのギターも、
ドラムもベースも好きだった。
「あたしそれ好きだよのんちゃん」
「ありがとう。
ツキコ、ベースはある?」
「あっ」
なるほど。
これだったのねルーシーさん。
「…あるけど」
「弾ける?」
「…弾ける」
何回も聞いたもん。
グラシア、譜面とか出回ってないから耳コピだけど。
「ジャグジーは?三味線!」
「えっえ、」
「んとね、演奏教えてあげるー」
そんな二人を眺めていたらルーシーさんが「ほれ、」とベースをぞんざいに渡してきた。
「…三味線の子、あんたと曽根原《そねはら》さん、最近元気ないなって言ってたよ」
「え、」
「ま、クリスマス会よ。好きにしなさい、若いんだから」
「うぉぉ…」
なんか。
「…嬉しいかも」
あたしだけのクリスマス会。
あたしだけの、最高の時間。
それからちゃっちゃとベースを出して「のんちゃーん!」と。
「よっしゃ!ジャグジーもいける?」
「音なんとなくこうかなぁ、のんちゃん」
ちょろっと三味線を依田が弾けば、「いいんじゃなーい?ははっ、凄いねこれー!」と楽しそうにのんちゃんが言って。
「楽しくやろ、やってみよ!」
それからセッションというか。
それぞれ、楽しく弾いて歌って。なんならお店の従業員は踊ってくれて。
「さぁLet's go!夜に飲み込まれる前に
涙で冷めるそんな夜を越えよう
僕の想いはいつだって同じで
一人きりのままいつまでもいるから
I want you now,
Rock Dance 心開いて
Rock Dance 悲しいからさ
Rock Dance 朝日になれば
僕はまた一人きりなんだ」
そっかのんちゃん。
今そんな気持ちなんだ、Escape Rock。
ならばとホントに朝まで楽しく飲み明かした。歌って、踊って、依田がのんちゃんに抱きついて「あははー気持ち悪いー」とか言われてて。
「ねぇ依田」
ふと、のんちゃんが女の子に囲まれてるときに聞いてみた。
「ん?」
「告白したの?」
吹き出した。ミカンサワー。
「いや、何言ってんのしてない!」
「えぇ〜、なんなのクソじゃん」
「いーの、いーの!」
酔っ払った依田はカウンターに肩肘ついてのんちゃんを眺めた。
「俺も恋人は文楽だから」
そっか。
「気持ち悪いね依田〜!」
「いいもん。
ねぇ亀ちゃん」
「なによ〜」
「今日楽しい?」
満面の笑みで、
蕩けた状態で依田は聞いてきた。
あたしはそれになんとなく答えなかったけど。
「よかったね、亀ちゃん。一人じゃないよ」
あぁ、そうか。
「いちいち臭いなぁ、依田は」
そうやって、
皆と楽しく過ごせたクリスマス。
そっか、自分のご褒美か、なーんてね。
朝になっちゃって。
のんちゃんがは朝になったら一人になっちゃうっ、また元通りて歌ってたんだけど。
「バイバーイ!ジャグジー、卯月《うづき》ぃ〜!来年もよろしく〜!最高のクリスマスだったよ〜!」
凄く幸せそうというかもう輝く笑顔でタクシーに乗り、のんちゃんは帰って行った。
「さて、あたしらも帰ろうか」
タクシーを拾おうとしたときふいに「亀ちゃん、」と呼ばれて「ん?」と振り向けば。
ふさっと何かを掛けられた。
まだタグがついた、黒いジャンバーだった。
見たことないよ、これ。
「んん!?」
「いつも寒そうだから、プレゼント」
そして凄く照れ臭そうに俯いてから「どう?」と聞いてきたから。
暖かい。これ。
「あんたにしちゃ良いセンス」
「あはは〜、のんちゃんのお陰だ。一緒に買いに行ったんだ」
「え?」
「亀ちゃん、クリスマスに疎いって言ったら洋服屋さんに連れてってくれて」
「…そっか」
それからタクシーはすぐに来て、なんとも言えない雰囲気だったんだけど。
朝日を眺めて依田が眠そうだったので、今しかないと思い、
「はい!」
渡した。
手袋を。
「…え?」
「初めてでしょ?クリスマスプレゼント。
今時手ぇふうふうする人いないから。手袋」
「亀ちゃん…」
恐る恐る中を見て「ははは、」と笑って依田は軽い包装から手袋を取り出し、眺めた。
「亀ちゃんっぽい。
ありがとう、嬉しいもんだね」
「入る?」
「うーん」
小さく見えたけど。
早速してみて、「入った」二人で思わずハモっては。
「ふふ、」
「ははは!」
笑えた。
確かになんだか、いつもと違う。
「またやろうね、亀ちゃん」
「そうだね」
悪くないしな。
こうして今年は。
子供の頃は祝えなかったけど、その分か、わりと変わった、
楽しいクリスマスを迎えたのだった。
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