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出勤早々ママ、ルーシーさんに言われた。
「明日貸し切り入ったよ」
と。
「貸し切り!?」
「うん」
「えっ、」
「クリスマスイブにSMバー貸し切りとか大丈夫かなとか思ったらさぁ、知り合いだったよ」
「え、なにそれ」
「明日はだからサンタの格好しなくてすむからね」
てなわけで、本日は赤い皮のジャケットに赤い皮のミニスカと網タイツを履いてサンタ帽を被ったあたしは。
たくさんのトナカイさんに鞭打ったり蝋を垂らしまくったりした後に明日の準備をしたのでした。
どうやらお客さんは注文が多かったらしく、準備が出来上がった頃にはなんだかSMバーと言うより、ライブ会場のような雰囲気になったViolent。なんならスピーカーの設定まで変えた。
一体どんな人がこれを頼んだのだろう。そう思っていたら帰りにママさんが言った。
「バンドやるみたいになったねなんか。どーせならツキコも明日ベース持ってきたら?」
と。
「いや、重いから…」
「じゃ!また明日。楽しみにしてるからねツキコ」
釘を刺された。
なに〜、なに今のフラグ感。
めっちゃ怪しいやん。とか疑心暗鬼のまま24日。
「行ってくるねー!」
依田はテンションマックスで出掛けた。
珍しくジーパンと長めの、灰色のコートを着ていた。背負う三味線には違和感しかなく。
まぁ前にのんちゃんとセッションしてたし、楽器もあれかな、月一皮変えるとか言ってたし、ついでに修理かな。
多分それはデートじゃないよなぁ。ま、いいんだけど。
嵐のような依田が去り、ふと思う。
ホントになんとなくだが、あいつマフラーとか手袋すらないよな。良いのかなぁ、指を大切にしている依田。良いのかなぁ。
ホントに気紛れだが、ギターも背負い、出勤前にデパートに寄ってそれなりの皮の黒い手袋を買った。
手がデカいよなぁ、男に物なんて買ってやったことないけど、入るよなぁ。
ま、いいや。皮なら最悪私が使えば良いし。
出勤すれば「なにツキコっ」と、何故だかルーシーさんが動揺した。
「あんた知ってたの?」
「え、何がですか?」
「だってそれプレゼントでしょ」
「たまたま気紛れで買いました」
「あそう…」
なんだろ。
ゆったりとした花柄のワンピースで、寝起きなのかカールがくしゃくしゃなルーシーさんはダルくタバコを吸っていた。
もう少しで開店なのに、なんかやる気ないなぁ。知り合いだから気を抜いてるんだろうか。
従業員を見ればみんないつもの革ジャンだったのでそれに習って着替えた。
「いつものツキコだね」
と、先輩の、金髪で緩いパーマのアリアさんに肩を叩かれ、漸く仕事モードに入った。
さぁ果たしてどんなトナカイさんが来るのかしらと、予約時間まで待てば、
「こんにちわー」
聞き慣れた低い声がした。
現れたのは、ジーパン、ロングコート、中には赤に、“the glass arrive sonic”と、手書きというかサインのような水色のロゴが入った、
グラシアのライブ販売Tシャツを着て三味線を背負った依田と。
「あははー、お久しぶりでーす」
青いロングコートと黒のタイトなスキニー姿で線が細い、前髪を流したいつもののんちゃんがにっこにこで入ってきた。
のんちゃんはアンプとギターを持参している。
「のんちゃん、依田ぁ!?」
「あははツキコー。Merry Christmas!」
いぇーいとハイタッチをするのんちゃん、依田と並ぶとやっぱ小柄。頭一個分て最早理想の恋人比率やん。
そしてのんちゃんは肩に“鷹沢雀次”と書かれた手拭い?暖簾?みたいな薄い布を掛けていた。
ライブタオルの感覚だろうなぁ。しかし多分違うよのんちゃん。なんで依田言ってあげないの?それともそういうやつなの?それも。
依田はルーシーさんに、「ありがとうございます」と言いながら、なんか紙袋を二つくらい渡していた。
「…みかん?」
「はい。
ウチの相方が愛媛出身で。なんか実家から届いたって昨日配り歩いてたんでいっぱい貰ってきたんです。よかったら」
相変わらず外面良いなぁ。
ママさんちょっと困り、「ま、今日はミカンサワーだね」と愛想笑いをした。
のんちゃんもにこにこしながら、「今日はありがとうございます。もしよかったら余り物ですが」と、ライブ販売の、依田が着ているシャツと同じ柄のタオルを、今いる従業員分、4枚渡していた。
「さぁて、今日は飲もう!踊ろう!」
のんちゃんが楽しそうに従業員に声を掛ければ「わー!」とか「すごーい!」とか言って皆も沸いた。
流石バンドさん。違うわぁ。
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