エリカ(躑躅科の植物)×陶器
彼女はリカちゃん人形のように整った顔をした女子高生で日本人形のように黒髪だったがその黒髪が彼女の手に持つ土器のような陶器に入りそうだがそれを私の前に立って持っている心理は定かでない。
私は仮にこの女子に「リカ」と名付けることにしたがリカは私をいつも「先生」と呼ぶのだから私の呼称を先生として話を進めたいと思う。リカは先生のいる教室に陶器を持って現れたのだった。
その備前焼の陶器を持つにはリカの腕は細くて心もとなかった。
そして何故リカが先生のいる教室に、備前焼には似合わぬラベンダーのような花を持って来たのか不思議でならない状況。
いや、不思議を解明していくのならその陶器は恐らく、なんとなく、華道部の物だと推測はできるし、その花はラベンダーよりも花は大きい、そしてラベンダーよりも桃色か紫色か、とにかく日本に馴染みはありそうな物で備前焼になんとなく馴染みを感じるが、リカのようにまだ、生え揃わぬほど若い花である。
最大の着眼はリカが日本人形のように無愛想、いや、俯いている、恥じらっているようなものでそれを先生に渡すような雰囲気を出すのだから、この解明が先生には出来ないでいるのだ。リカは何故これをここに持ってきたのか、リカは何故先生に渡すのか、リカには何故少し…恥じらいがあるのか。
先生は先生と言っても華道の先生ではないし、いや、むしろ先生に花の知識は皆無だ。そして生物学、いや理科の先生でもなければリカの先生でもない。一介の社会科の先生でリカとは週に3時間ほどしか会わない距離感だったのだけど、リカはわざわざ先生がいるかも曖昧な社会資料室に来ているのだ。先生にはリカのそれがいまいち掴めないでいる。
「…吉野さん、どうしたの」
「さつき先生こんにちは」
リカは漸く仄かな微笑みで顔をあげるのだった。
「あの、華道で植えたので」
「…うん、えっと」
「終業式に間に合ってよかった」
「終業式?」
まだ一月は先だろうが。先生の謎は深まる。
「…重そうね」
「さつき先生、持ってもらえますか?」
ここに来て何を要求されるのか。
「まあ、いいけど…」
先生はリカからそれを受け取ればそれは然して重くもなかった。リカはその譲渡が終われば遠慮なく椅子に座り「やっぱり先生、便りになりますね」と言う。
「背も高いし、さばさばしてる」
「そうかな」
先生は取り敢えずとしてその花をリカの座る椅子にとペアの、リカの背中にある机においてリカの隣の席に座った。この生徒が何を考えるのか、闇のような気がしてきたからだ。
「先生、陰で「宝塚」って呼ばれてるの知ってますか」
「…なんとなくは」
「そうなんだ、やっぱりさばさばしてますね」
「う〜ん、」
「女子高にはそれくらいないと」
それはそうだけどと先生は考える。
女ばかりの環境下では正直にやっかみが顕著だと、赴任して半年で感じている。だからいまもこうして一人課題作りと称して職員室に居付けないのだし。実際に課題は作っているけれども。
「この花ここに飾ってください」
「…うん、じゃぁそうする」
「本当ですか?よかった。これ、もう少しで満開だったんで」
「そうなんだ。これ、何て」
「エリカです」
エリカ。そういえば、というか何故リカと名付けたかの原点のひとつにある。
「綺麗ですよね、華やかで、なんだか…」
言い止めてリカはどこか、遠くの教室の壁やら空気などを眺めたかと思えば先生を艶かな微笑みで先生の顔を見るのだった。
「先生、恋人はいますか?」
「いないけど…」
女子高生が好きな話題かと先生は漸く話を掴めた気になる。彼氏の愚痴か、彼氏が出来ないか、そんな話題終着かもしれないと心理を図る手口が見えた気がする。
「終業式にまた来ます。イルミネーションみたいに沢山の花を持ってきます」
「…そんなに花ってあるもんなの?」
「沢山ありますよ。そしたら受け取ってくれますか」
「重さによるかな」
「じゃぁ、きっとこれは枯れているでしょうけど、まぁ、クリスマスプレゼントまで待ってください」
「そういえば今年クリスマスだよね、終業式」
「そうですね」
「え、どうしてクリスマスプレゼントなんて」
彼女は「じゃぁ、」とだけ言い残し社会科資料室を後にしてしまった。
私は少しだけ、あともう少し話しがしてみたかった気がすると、エリカの花を眺める。
※寝起きの頭体操。意外と物語。珍しくこの場書き下ろし。
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