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 空には飛行機雲がくっきりと描かれている。噎せ返るほどに啼く蝉は、もはや日常の一部と化していた。

 夏休み前の、眠くなるような午後の授業。
 そろそろこの暇な学校と言う空間に来なくて済むのか。

 祐介は、案外うんざりしていた。
 この、教師のやる気なんて見られない授業、普遍な日常に。だからといって夏休みが暇でないか、と言ったらそれは別問題である。

 そんなことを考えながら外を眺めたところで、思考をさ迷わせ霧散させるほどの日常が広がっているばかりで。

 この暇で呪文のような活字の音声羅列はあと何分で終わるのかと時計を見てみる。まだ授業開始から15分しか経っていない。

 さすがにもう、持て余すほど暇だ。

 再び外を見ても飛行機雲が少し崩れた程度の変化。がっかりもしたが、それよりも無に近い心境で教室を眺めた。

 隣の列の2つ前に、空席がある。

あぁそうだ。

 休みの主は恐らく今ごろ図書室か保健室にいるだろう。

 気楽なものだ。

 だがそれはいわゆる“仕方のない”ことだ。彼は体があまり強くはない。

 そう他人事を考えると、少し胸に違和感を感じた。何となく嫌になる前に、祐介はまた外を眺める。

 飛行機雲は、ほとんど原型を留めていない。

 授業もあと30分はある。暇だ。

 そうそう、例えば、人でも落ちてきたら授業は丸潰れ、話題もできる。
 そしたら全校集会だ。

 あぁ、不謹慎なこと考えてる。ダメダメ。実際に人が落ちたら気持ちが悪い。

 ほんの少し、そんな考えがよぎる。夏の暑さのせいでイライラしていたからかもしれない。

 眺めていた窓の外。
 とても大きく縦長な物が、祐介の眼前を過った。鈍い音。見覚えがあるような何か。

「落ちた!」
「先生、いま人!」

 クラスの一番目立つ男子と、お調子者の女子が声を上げた。それに祐介はやっと、現実に戻ってきた。

人が落ち…

「た…落ちた?」

 野次馬本能や恐怖心、心当たりのようなものに出会い、祐介は真っ先にベランダへ出た。先生が怒るように止めている。だけども祐介は自分に負け、下を覗き込んだ。

 見覚えのある制服、あれは男子だ。

 不自然に曲がった手足と、庭の草木を染める紅、そのなかに見える茶色だか何色だかの欠片。
 自然な色の黒い頭髪。生前は折れてしまいそうだと不安になったひょろりとした体付き。

 何故こんなにも形を変えてしまっているのに、わかってしまったんだろうか。

 彼を俺は知っている。

「あ…涼…」

 彼は友人の、白崎涼であった。

「おい涼って、白崎?」

 真後ろから声がした。振り向かずともわかる。彼はこのクラス実権を握る、丹波恭一だ。

 だが、祐介に返事をする余裕は全くない。

 恐れていたことが起きてしまった。そう、恐れていたこと、だ。

 祐介は一目散に教室から飛び出す。あれを友人だと、認めたくない。

 背後に丹波の声が聞こえる。構わなかった。元はと言えばあいつが悪い。そう、あいつが。

 一階まで降りてみて、急に怖くなった。庭には出ずに廊下からひっそりと盗み見る。

 走る教師たちとすれ違うので、その辺を通りがかったフリをする。が、授業中の今、祐介は教師たちの目に止まった。

 去り際に注意を受けながら、やはり横目で死体を見る。死体と眼があった気がして視線を足元に寄越すと、数滴分の血痕が目につき、思わずもと来た道ヘ駆け出した。

 あの目は。
 あの、飛び出しても繋がっていたあの目は、生きていたのだ。

 あの塊は生きていたのだ。

 そして、
確かに、助けを求めていたはずだった。

 祐介は、何かが溜まってしまった心を抱えて教室に戻った。

 教室は騒然としていた。
 先生は不在。生徒の顔は皆真っ青。中には「ほんとにうちのクラスの白崎なの?」と、疑問を持つ子、覗いて見てその場で吐いてしまった子もいた。

「人間って、ホントに死んじまうんだな」

 なのに、好奇心のような音声で言うヤツがいる。

「簡単だなぁ。てか、ホントに死んでんの?」
「へへっ、見てみりゃぁ良いだろ」
「ヤダよ!吐いちゃう〜」

 それどころか、笑いあっている。

「おう三船、どーだったよ?」
「え…?」

あぁ、このクソ野郎共。
お前ら、見てないって…。
お前らが原因じゃねぇか。
見てないから笑えるんだよ。
お前、あれ見てみろよ。
もはや、涼じゃない。

「見てきた。ヤバかったよ」

なのに、
なのに……!

 自分は、彼らに話題提供をする。

 クラスメートの視線が刺さる。俺までこんな奴らと同じ目で見られているのだろうか。祐介がクラスを見回すと、やはり攻めるような視線だ。

「あぁ!?なに見てんだよぉ!!あぁ!?てめぇらもあぁなりてぇのか?」

 丹波が睨み付けて大声で笑うと、クラス全員は視線を外した。

大声で笑う奴ら。
サイテーじゃないか。

 人が一人死んでしまった。それは良くない。ましてや苛めが原因だなんて。
 それを見て見ぬふりしていたクラスの人間も最低だ。

 祐介はその時、あることを決意したのだった。

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