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祐介やクラスメートはそのまま夏休みを迎えた。が、やはり他のクラスよりも休みは少し減ってしまった。
そして夏休み中に学級会が開かれた。内容は勿論、“白崎涼の自殺について”だ。
クラスのほとんどは何も話さなかった。だから祐介は、自ら担任に話したのだった。
「クラス内で、イジメがありました」
この話は担任との二者面談によって行われたので、すんなりと話すことができた。
「どんなことをされていましたか」
「彼は、何を悩んでいましたか」
そんなことはある程度しか知らない。むしろ、それをはっきり知りたいくらいだ。
彼は何を悩んでいたのか。
彼は恐らく、苛められる前から悩みはあったのだ。祐介にはそう見えた。
今回の件はきっとそれもあるだろう。
むしろ、
むしろそうだ、ほとんど図書室か保健室にいたし、苛めなんかあまりないところにいたじゃないか。
だから、きっと…。
皆のせいじゃない。
祐介はまず涼の腹違いの姉にコンタクトを取ることにした。
だが、誰だかわからない。まず学年に白崎と言う名字は涼を除いて他にいない。
特別親しくしていた女の子も居なかったし。
一度だけその存在を聞いたことがあるだけだ。
確か…。
以前涼が好きな本の話をしていたとき、そう言えばいっていたかも…。
思い出すのにも時間がかかった。むしろほぼ、思い出せなかった。
ただ一度は聞いたことある。曖昧な記憶だけを便りに似たような名前を探した。
当てはまったのが一組の栗原佐奈子だった。
早速放課後、真っ先に一組に行ってみたがもはや彼女は居なかった。クラスの人に聞くと、「たぶん図書室だよ」と言われた。
祐介はその足で図書室に行ってみることにした。
ドアを開けてみてすぐに、髪の長い女の子が座って静かに本を読んでいた。
この姿、に似ている者を俺は知っている。
「栗原さん、ですか?」
彼女は警戒と不審の入り交じったような瞳でちらっと祐介を見て、「はい…誰でしょうか」と逆に訊ねた。
「二年三組の三船です。お話があってきました。一組の方に聞いたらここだと言われたので、こんなとこまで来てしまったんですが…」
栗原佐奈子は意外にも、澄ました顔をしながらも前の席を進めてきた。
「どうも…」
「話って?」
「はい。
7月14日、うちのクラスの白崎涼が自殺をしました」
「知ってるそれがどうかしたの?」
案外平然とした態度の佐奈子に、祐介は少し怯み、揺らいだ。
何故、こんなに冷静でいられるのか。彼女と話してみて本当に直感でしかないが何かを掴めた気ではいる。こうなれば賭けだ。
「あなた、何か知りませんか?」
「何で私が知ってるの?赤の他人だよ」
「…あなたは…涼の、お姉さんですよね?」
言っておきながら祐介は不安になった。こんなに平然とされちゃぁ、もしや本当に涼とは無関係なのか…?
佐奈子は、今まで一度も目線を逸らさなかった本を閉じ、窓の外を見た。
「同学年だよ?」
「涼から、腹違いで同い年の姉がいるんだと、聞いたことがあります…。
俺は、涼を親友だと思っています」
「それで…?探偵ごっこ?」
「いえ、そうではありません。ですが、知りたいとは思っています」
「何を?」
「彼の、自殺した原因を」
そう祐介が言うと佐奈子は呆れたように席を立った。
祐介は引き留めようと、反射的に立ち上がった。
「待ってください!!」
「どうして?なんの意味もないのに」
言葉がまとまらない、でも何か言わなくては彼女は退席してしまう。
「とても…不躾なのはわかっています。でも、僕は知りたいんです!」
祐介は頭の中で必死になって言葉を考える。自分に不利ではなく、だけども相手を納得させなくては。
「知ってどうするの?何にもならない自己満足、利己主義。私が涼の事を話したら、あなたは明日誰とそのネタで盛り上がるの?」
そう言われて、言葉が詰まった。そしてやはり予想に近い何かは確かなものとなったようだ。
冷たい怒りと冷ややかな核心がせめぎ合うように絡む。
「そんなこと、…しませんよ…。
あなたは今、足を止めて待ってくれている。それには…意味があるはずだ」
「…強引だね」
祐介自身も、そうは思った。だが意外にも、佐奈子は前の席に座り直してくれた。バツの悪い気持ちで、祐介ももう一度座ることにする。
「すみません。まずは、俺が話さなければなりませんでした。
涼は、…クラスで、虐めに遭っていました。悲しみが癒えないうちなのに、こんな話をして申し訳ないのですが…」
「…知ってる。どんなことを、されていたのかも」
佐奈子の人を突くような視線から、思わず逃げる。何故だか、彼女は苦手だと祐介は思った。
「そう、ですか…」
「とは言っても、あの子から直接聞いたわけじゃないけれど。涼は私の前では笑ってはぐらかすから」
「笑って、か…。意外です」
自分の前ではそんなこと、なかったように思える。
ふと佐奈子が視線を長机の上に落とした。ここを訪れてから初めて、人間らしい表情を浮かべていた。
「私は気づいていたって言うのに。私にだけは何も話さなかった。だけど私は、現場だって見ている」
不意に視線があってしまい、祐介は目を逸らした。彼女は、精神に切迫した緊張をもたらすようだ。
だったら。
祐介は、無駄だとわかっていたが、敢えて斬り込んでみた。
「手首に傷があることは?」
「知ってた」
あっさりと攻撃はかわされた。
図書室の外を眺める彼女を夕陽が照らす。ここから寒くなるのはあっという間である。
夏はとうに過ぎてしまったと言うのに。私はこうして外を眺めるのか。
佐奈子の脳裏には、記憶の中にある夏の日が思い起こされた。
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