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「僕の家族は、兄と妹、父親と母親がおりました」
僕がそう静かに身の内を話せば、彼女は嬉しそうに、「ねぇブロッサム」と僕に言いました。
「明日貴方の家に行きましょう」
どうしたのだろう。
「…突然どうしたのですか、ローズマリー」
「家にばかりいるのも、なんだか気が滅入るし、思い付きなのだけど」
「それは…」
きっと両親も兄妹も驚くだろう。しかしローズマリーは「駄目かしら?」と、悩ましげに言うものだから。
「…きっと、喜んでくれますが、驚くかもしれません」
「あら、どうして?」
「王女様ですから」
ローズマリーはふと、軽やかに笑って言うのでした。
「確かに私はこの国の王女で、セージとハーブの娘だけれど、きっとその程度のことよ。ただの、女なの。
貴方も、お父様とお母様がいるじゃない」
しかし…。
「ローズマリー、男が、女性を親に会わせるのは、少し覚悟がいるものなのですよ」
僕は笑ってそう返しました。
ローズマリーは照れたように俯いて、それから嬉しそうに僕の項に腕を回し、「ねぇブロッサム」と、くすぐったく耳元で悪戯な声で言ってシルクに沈み、妖艶に笑うのでした。
「貴方の家族はどんな人?ローズマリーのように、安らかな色をした人なのかしら?ブロッサムのように、優しい色を、した人なのかしら」
静かに、僕はそんなローズマリーの、宇宙のように深く、キラキラとした碧眼に魅入っては「さぁ、どうでしょうね」と意地悪く耳元に囁いて舌を滑らせて。
僕は、ブロッサムとローズマリーが、そんな暖かな色なんだと知ったのは君のお陰なんですよと、情熱に色を燃やすことが出来る。その、窓枠にある夜のプリズムは時を、囁くように放って、青く焦がれた夜空に静かな衝動が生まれるのです。君へ送った、ブーケと同じ色の色彩はその窓枠にある。
あの頃、ローズの棘に傷付いたの君へのたむけ、僕へのたむけ。僕らはいつだってそう、傷痕を残してきたんだ。いつまで続くかわからないまま。
わからなかったんだ、あの日の僕は。それほどに焦がしていた。
この花も、プリズムも、あの日の君の滑らかな白い肌ですら永遠に消えてしまうだなんて、考えすらしなかったけど。
いつまで。
まだ暗い朝方に彼女は僕の腕の中で言ったんだ。
「貴方と永遠は過ごせない」と。
「一度も貴方は家に帰らなかった。私がいない2年ですら」
「そうですね」
「貴方は私を恨むかしら」
「…何故ですか」
「ならば、捨ててしまいましょう」
何を。
何を言っているのか判明しないまま、荷造りをして二人で城を出たのでした。空はまだ、昼を取り戻していない曖昧さで。
彼女は僕に、「これでごめんなさい」と、花瓶に刺さったブーゲンビリアを持たせました。
「でも、今日のブーゲンビリアが美しいから」
静かな含みを持たせたまま、彼女は僕の家に向かおうと言います。なんだか変で、僕はローズマリーに問います、「君は今何を考えているんだい」と。
「ここは、居場所じゃないの」
思い出しました。
あの、アリッサムの城へ向かう前の君を。
「ローズマリー?」
悲しそうに笑うローズマリーに。
僕はそうか、彼女のたった一人の味方なんだと感じました。
「貴方はそれでも」
「君が…。君がいれば僕はなんだっていいんだ、ローズマリー」
その僕の言葉にローズマリーはやっぱり、曖昧な笑みを寄越してきたのでした。
「…疲れたわ、ブロッサム」
そうか。
僕は僕を捨てローズマリーと、二人きりになるんだと、まだ星が光る朝方に悟ったのでした。
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