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革命はその身を引き裂くように訪れました。
次の日の昼に、その『北の王子』アリッサムが城にやって来たのです。
アリッサムは容姿麗しく、奥ゆかしく優しそう、女性のような見映えのお方でしたが、何分わがままでした。
城へ降り立つ瞬間に、執事がご用意した靴に対しは「おい」と声を掛け、執事の肩を使い立ち上がるのも、まるでそれを椅子の手摺のような扱いで。
僕にも飛び火があり、
「何魅惚れているんだ、案内をしろよ」
と、碧眼でも、例えばローズマリーのような優しい色ではなく、もっと寒く冷たい眼差しをしていました。
慌てて現れた、時間を掛けたのであろう金色のドレスをふわふわさせながら王妃が現れまして、「お待たせいたしました」と腰を折るのを見て、
あまりに不相応だなと苦笑いをするばかりな心境でした。
そのまま王妃に連れられて北の王子アリッサムが城へ消えていく背中を見て僕は不謹慎ながらも、こんな縁談は破綻すれば良いのにと思いました。
恐らく気位ばかりの方。ローズマリーを愛することは出来ないだろうと、溜め息を吐いては窓を見上げるのです。
赤い、バラのような花弁が舞うのが見えました。何やら、とても不穏な空気で。
ローズマリーが窓に押し付けられ、アリッサムに迫られている。
どうやら早々に喧嘩をなさったのかと思えば、するすると、ローズマリーの肩からドレスが剥がれるのが見えて。
これは見てはならないものだと感じましたが、窓越しにその冷たい碧眼が僕を捉え、醜く笑いその白い肩に噛みついたのが見えたので、
僕は走ってローズマリーの部屋へ向かいました。
念はなんだか自分でもわかりません。嫉妬なのか、身を案じた焦燥なのか、はたまた
情念なのかは僕の頭を駆け巡り、駆け巡り、焦りが一番勝って部屋につけば扉の前に王妃が立っていて。
「まだお若いのねぇ、北のおぼっちゃんは」
そう言って僕を見ました。
笑っていました。
ローズマリーの部屋からは彼女の微かな弱々しい拒否の意が漏れ聞こえているのに、王妃はただ、そこに立って聞き耳を立てるように門番をしておりました。
「王妃様、昨晩から王女は体調が優れないのです」
「何を言っているのかしら貴方は」
「ですから」
「毎日毎晩遊んでおいてあの子の体調が悪いなど、それ如きで財政は再建しないのよ」
僕を睨んだ王妃はそれからいやらしく口許に笑みを称えました。
嫌だ、助けて、お母様。
その悲痛を聞いたところで僕はただ耐え、俯くことしか出来ぬ己を恥じました。
この場で僕が出来ることはなく、下手に介入しようにも、花屋の、家族の顔が浮かびます。浮かんでは「嫌だ、助けて」が耳に入り、ただただ、時が流れるのを待ちました。
そのうちローズマリーの嫌悪な声が止み、しばらくは静寂に何もわからず、時が過ぎ。
手を差し伸べたくても拳になるそれが忌々しく感じていた頃でした。アリッサムは何事もなく、麗しく満足げに見える表情で部屋から、出てきました。
アリッサムが部屋から出てきたのを王妃は「まぁいかがでしたか」と、満面の笑みを称えて一階の、客間に連れて行くのでした。
すれ違い様アリッサムは一度僕を見てから王妃に、
「とてもお美しいお嬢様ですね」
と、これ見よがしに言った事にも納得がいきませんが、開け放たれたドアを見て、
赤いローズが足元に何枚か零れているのを見て、僕は居ても立っても居られず、そのドアに歩いていきました。
ローズマリーが辛うじて着たコルセットのまま、ベットから陽の光を眺めている姿に悲しみを覚えました。足元には赤いローズの花束がぞんざいに転がり、散った花びらがそこら中にあって。
力なく彼女が振り返り僕を見る目は光などなく、ただ、涙を一筋殺して言うのでした。
「ローズの花を持ってきたのよあの男」
と。
「…ローズマリー、」
「貴方なら」
「…お休みください、ローズマリー」
どうして良いかわからず、投げっぱなしのドレスを拾い、渡そうと手を伸ばして、
堪らなくなってしまい、その傷付いた彼女を手に納めてしまえば自分が不甲斐なく。
ローズマリーの鼓動を|聴《だ》いて口付けをするも、ふとその手がローズマリーに払われ、「やめて頂戴」と。
「私の居場所はそこじゃないのよブロッサム」
柔らかく包み込む霧雨のような、その声が。
「今は来ないで」
そう言って眠りにつくローズマリーに。
止んでしまった霧雨。差し伸べた手が、まるで引いては返す漣のようだと、僕は涙が止まない気持ちでいるのでした。
僕の世界に君は居なくなるのかもしれないと、音を立てて崩れ落ちようと、していた。
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