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それから僕の成す術は無く、王女ローズマリーは北の国の王子、アリッサムと祝言を挙げました。
僕はと言うと、教会で彼女の、柔らかくも哀しく見える美しい笑顔と純白のドレス、彼の腕を取る様を見て、ただ黙って、彼女が好きだったブーゲンビリアの花束を教会に残し、立ち去りました。
民衆に愛された彼女はたくさんの人に囲まれ、幸せを歩むはずでした。
僕はと言えば、それから庭師は続けていました。ローズマリーの居たあの城で。
本当は、僕はローズマリーが勝手に拾ってきた召し使い、庭師だったので、王セージも王妃ハーブも、ここに僕を残すことには渋い顔をしていました。
それは僕だって同じで、愛する彼女がいなくなってしまったこの庭を愛することが出来なくなっていました。
ブーゲンビリアは祝言を最後に刈り取ってしまったので咲いていない。祝言にしても似合わない、地味な花で、教会のシスター達も苦い顔をしていたので、あれが彼女に渡ったかも、わかりません。
しかし僕にとってあの花は、彼女へのたむけのような心境でした。
涙すらあの日殺した彼女はきっと心を殺して生きていくのだろうと。ささやかながらだから僕は、それだけの為に教会に行ったのでした。声も上げることなく手を振ることも、しなかった。
僕は彼女を救う方法だとかを考えられる程の財力も地位もありません。出来ることは彼女の幸せをただ、偽り願うことばかりでただ、過ぎていたのです。
彼女と過ごした数年を思い出しては、また窓を見上げて庭の手入れをするだけで。
彼女が居なくなり一心に愛を受け取れると考えていた王妃は、それも上手く行かなかったと僕に嘆いて誘い入れることがありましたが、僕はこの王妃には何も抱くことなく、ただ庭を手入れするだけなのです。
ある日王妃は、そんな僕が育てた花を蹴散らしてこう言ったのでした。
「あの娘の何が良いって言うの」
「…自分の子供じゃないですかハーブ王妃」
「あの娘は私の子なんかじゃない。あの人を奪い去った悪魔よ。
天罰が下ったんだわブロッサム。あの娘はいま病に苦しんでいるそうよ」
蹴散らされた花の、傷付いた茎を切り落として僕は訪ねようと口から言葉を吐きました。
「それは、」
呼吸が止まりそうになり、それから続けられない僕がいて。
「そのまま死んだら、子も居ないあの子に意味なんてないわね」
「…何故、病を?」
「さぁ?知らないわ」
その日から僕は庭の手入れは辞めました。
ただの召し使いとなり、手入れをしていた時間は教会に通うようになりました。
祈ることで、少しばかり気を紛らわしたくてそうしていました。
多分、葬儀でローズマリーに祷りを捧げる人々と変わらないのです。
そうして人々と出会ううちに知りました。
ローズマリーは病弱で子供が臨めない、と。
誰が言っているのかは知りません。
知りたくもありませんでした。あのアリッサムの事を考えれば、そう、彼女はもしや心身ともに傷付いているのではないかと思えば不憫で仕方なく。しかしそれを解消することは僕には、出来ない。
『今は来ないで』
とあの日に言ったローズマリーの、疲れきった姿を思い出しては、祈ることしか出来ずにいたのですが。
「アリッサムは新しい王妃を探しているそうよ」
噂が耳に入ったのでした。
ローズマリーは寝たきりだ、アリッサムは若い、世継ぎが必要なんだと。
僕のそれからの祈りは、
どうかローズマリー、僕が作ったあの庭に、帰っておいでと、邪な物になっていくのが自分でもわかりました。
一人、ただ一人、愛を乞うように僕はそれを祈りました。
本格的に城内がざわついてきた頃にはその噂が真実味を帯びたのだと知りました。
加屋の外、庭の手入れを僕は再会し、今度あの部屋に君が帰ってきたら見えるような位置にブーゲンビリアを一杯にしようと、枯れたローズマリーの蔦のようになった葉を刈り取り、また植えて。
君のいまを僕はそれでも知らない。
君がどれ程あの男に手酷くされたかを思えば胸が痛くなり、呼吸を忘れてしまう瞬間があったのだけど。
僕はその日を願ってずっと、庭の手入れをし続けました。育ちすぎたブーゲンビリアはたまに刈り取り、あの部屋に飾って。
愛を乞うように花瓶で呼吸をするブーゲンビリアに満足しました。
ずっと、ブーゲンビリアを見れば思い出すのです。あの、君と笑い合って、花の話をした日を。
この花には変わらぬ愛、私を思ってという意味があるんだよローズマリー。
ブーゲンビリアには、あなたしか見えない、情熱という意味があるんだよ、とか、そんな他愛のない愛が思い出されるのです。
僕はこれほどの矮小さで、ローズマリーの去った2年を一人、過ごしたのでした。
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