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 ひとつひとつ、アサリにフォークをぶっ刺して口にいれればうーん、感触といい特有の苦さといいホントに好きじゃないなと思いながら、「拓郎と写真を撮れる状況を作って欲しい」と、単刀直入なのかなんなのかよくわからん要請をしてしまった。

「…はい?」

 うわぁ案の定だ。
 アサリは全て飲み込むことにして「うむ」が「うぶっ、」になり、更に無様だ。
 息を吸わずにコーヒーでアサリ達は喉を流れていく。

「…不味そうですね」
「うん………はぁ、うんごめん。やめればよかった」
「残したらいいのに」
「いや、そう言うのダメっていう身に染みたおかんからの教育。忌々しいわこんなとき」
「まぁ私もそのタイプです…」

 あぁなるほどそれでね、と下ネタと結び付きそうになり、話の趣旨を「それでな、」と戻すことにした。

「うーんと…、概要を話せば奥さんが、ね。君と拓郎さんが一緒にいるところ…まぁ俺みたいにドアへ招き入れられるところ、なんかがベストかもしれないんだけど、あんなのが撮れたらと…」
「はい、」
「いやぁ君には「なかったことに」なんて言ったんだけどなかったことにした結果あることになりそうな気もしなくはないが、要するに浮気の証拠が欲しいと」
「…変な話ですが」

 店員がパスタを下げに来た瞬間に藤川瑠璃が「行為中の方が効果的ではないですか」なんて言い出すのだから、思わず舌を噛みそうになった。

「…そーゆー話をするんじゃないよ」
「あ、すみません」
「いやぁいいですそこまでしなくて。君は拓郎となんとなくそれっぽければいいんです」
「はぁ…」
「君、忘れてますけど児童ポルノなんで。大体そんな瞬間を奥さんが撮るとかなんなのそのプレイ」
「あ、そっか、奥さんか…」
「え、なに?君そっちで考えたの?ダメだからねマジで。それ俺がなんかビデオ監督みたいじゃんか」
「そこまで言ってませんけども」
「…そんなん俺疑われるから、いや、疑われてる?俺別にAV監督とかじゃないからね」
「あ、違います、はい」
「…まぁまぁ仕方ないよな。いいんだけどさ、同じようなこと言ってるし。俺としては重要点は「奥さんが現場に踏み込み証拠を持ってくる」って…一番俺の口から言ってはならんやつ言っちゃったけど君ボイスレコーダーまわしてたら捕まるなこれ」
「…大変なんですね。そこまで至りませんでした」
「そうだよ大人って大変なんだからね全く。
 いやまぁ、君には助かってる面があるのは悔しいところだけど」
「なるほど〜」

 こうして話してみるとなんだかこの子。
 めっちゃズレてるな。いや、というか天然ちゃん?ズレてるし擦れているな、なんか。

「…それはつまり、えっと…正直どうでもよかったのもあって拓郎さんが既婚者でもなんでもよかったんですけど…離婚調停なんでしょうか」
「だろうねぇ、まぁそうだよ」
「…大変なんですね」
「まぁ今更関係ないでしょ、良心が漸く傷んだ?」
「いや、そっちじゃなく。いや、まぁ痛むには痛むんですが…」
「正直だなぁ〜、まぁそんなもんだよな。俺もそう思うし。ぶっちゃけこんなん、当人同士で話せればいいんだけどそれにも限界があるし、何より俺もそれで飯食ってるってもんで」
「…なんか、」
「ん?」
「…千秋さん、優しいですね」
「……何言ってんの?」
「いえ、別に。そういうものでしょうね。
 では私の気持ちの問題も兼ね、大丈夫です、協力します」
「…助かる正直」
「なので、まぁ気にしないでください、本当に。他意はないです。無条件降伏で」
「…その言い方やめて欲しいなぁ、君あんま友達いないだろ」
「よくわかりましたね」
「可愛くないもん。助かるからあんまり言うのも憚られるが」
「いえ、そう思います。ははは」

 楽しそうだった。
 気付けば顔面蒼白ではあるが、まぁまぁ悪くはなくなっている。メンタル的なものなんだろうか。

「…私も両親、離婚してるんです」

 まぁ、確かにそんな子供の大抵は家庭なんて崩壊しているだろうという見解ではあるが、なるほど。

「ふーん」
「…はははっ、面白い」

 顔面蒼白ではないにしても、やはり少し翳はあるのだから、いずれにしても具合は良くないのだろう。急に笑い出すくらいのメンタルで。

「拓郎さんに今メールしてみます」
「え?今?」
「どうかなぁ、会えるかなぁ」
「…大体月水金なんだよねって待って、話を聞け」

 すぐにケータイを取り出した藤川瑠璃を制するが「え?」な具合。

「いやまぁ奥さんの予定とか色々」
「日にち指定にしますか?」
「あ、待って、ならなんかどうせなら行為を匂わせる文面で」
「これなんてどうです?」

 見せてきた画面は「たくろうさん、こんにちは。この前のセックス、とても気持ちよかったです」だなんて、すでに送信されていた。

「おぉお君の貞操観念の緩さに」
「あ。『こんにちは』って」
「早っ」
「『もしよかったらまた会って気持ち良くなりたいな。次はローターとかで見てみたい』だそうです」
「よっしゃ来たぁってうわぁ、もうメールだけでいいんじゃないかとっつーかなんだあいつはっ、」
「あ、『いまからどうかな』って…」
「はぁ!?なんだあいつはってちょっと待って奥さんにって、待て待てなんとなく引き伸ばしといてそれぇ!」
「でも私下校時間には帰りたいです」
「後日でもいいんだからねって待って、ちょっ、いま電話するからちょっと、」

 流されてしまったがそうだ奥さん多分まだ近くにいるんだよあの雰囲気。絶対あの人、俺の連絡を今か今かとあの場で待つ雰囲気だったんだよと慌てて電話すれば即「はい」と、案の定で出てしまった。

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