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「今日は兄から学校に連絡があったらしいんです」
ふと現れた店員さんに千秋さんは「お会計で」と告げる。
「あ、えっと」
「わりと食えなそうなんで。値段とかも気にせず」
「…はぁ、」
言うだけ言って、千秋さんはまだ少し戸惑っている店員さんは構わずに「で?」と私に聞いてくる。
店員さんは渋々下がって行った。
「喧嘩して出て行っちゃったんだけど来てますか?と」
「…へぇ、」
「私なんて今日は学校に行かなくても凄く自然なのに」
「うーんまぁ、学校でのことは知ってんのか?まぁ、あいつヤバそうだし、それもいずれってやつか…」
「もう電話は掛けないだろうと思いますよ」
「じゃぁ学校行けないなぁ、」
「ですよね、誘拐されちゃう」
考えるように千秋さんは私を見て「全く我が儘だな」と笑う。
「…悪くないけどね。俺も我が儘だから」
「ですね、」
「んじゃぁ火曜日は学校行く?」
「そうします。正直腹立ってるし」
「はは、可愛くなっ、瑠璃は順応能力高すぎるな」
嬉しそうに、というかからかうように「怖いくらいだ」とだけ千秋さんは言って、それ以上は特に入ってこない…わりに、何かを考えているような表情で。
歩いて千秋さんの家に帰ろうとして漸く、「そーいや甘いもんよかった?」と聞いてきた。
「そうですねぇ、まぁお腹一杯ですから」
「別腹って言うじゃん」
「ですね。大丈夫です」
「あっそう…」
結局気まずいような、いや、却ってそうでもないような、という空気のなか、どんな間だかいまいちわからない「まぁ自分で決めたらいいよ」と言う千秋さんに、やはり案外、こんな涼しい顔をして戸惑っているのだと感じた。
「…すみません、なんか」
「最早俺ってそう言えば探偵だし。まぁ里親探しとかも…まぁ…意外とやらないけども」
「…捨て猫とかの?」
「そうそう……そういうやつ……」
やはりなんの間だかよくはわからないが、この人は最早考えすぎる人なんだろう。
「…あれってそれなら、誰がやるんですか?」
「……ん?まぁ俺たちより便利屋なんじゃない?これも希少種だし、大体俺らもビラ配りで終了かな。本来愛護団体様々がやるんでしょ多分」
……まるで援交だと考える私は今何を考えているのか。
「……そう言えばですけど私、援交男子に告白されたんですあの日」
「…え、急に恋バナ?」
「はい。まぁ……」
私は貴方とセックスしたいと言ったのを忘れたわけでは、ありませんから。
と、……何故か言うのを躊躇う気持ちが出て来ている。
「へぇ、でもその感じって」
「はいまぁ…全くと言って良いほど。ただちょっと切なそうだったなって…買い被りですかね、気になって」
「んーそれはもういっちまえば良い気がする。ありじゃん?」
「どうしてもなしだから気になる、方…」
「わからなくもないけど。どうせ別れるだろうし。ただ、いずれにしても健全だと思」
「セックスしちゃいけないのに?」
千秋さんをまた黙らせると思ったのだが、彼は予想を外し、普通に「別に悪くないでしょ」と返してきた。
「え、そうなんですか」
「そうなんです。じゃなきゃこんなに人間いない」
あ、片言。
「確かに…」
「まぁ君たちは大抵が猿なんで命の重みうんぬんかんぬんで怒られますけどね。俺も学生時代はこそこそしてたし」
「モテました?モテましたよねきっと」
「そうでもない」
「まぁそういうのはあまり自分から言いませんよね普通」
「…なんだか変だな。まぁ君は大変モテるようですね」
「思ってないですよね、それ。まぁそうでもない、が正解です」
千秋さんは振り向き私を見て、「思ったより喋るなぁ」と言う。
…それもそうでもないんです。
「ましてや素面なのにメンタル渋滞してない?」
「…そうでもないです」
「まあ自分から言わないか」
「千秋さん」
「ん?」
「私は貴方とセックスしたいです…よ?」
言ったらかなり、恥ずかしくなった。
彼は一度黙ったのに、「ふははっ、」と物凄く笑った。
「あーね、はいはいそうガッツリきたかやっぱり」
「…でもリスキーだって知りました」
「まぁね。かなり。リスキーというか終わってる」
終わってる。
…そうか、と思ったのだが、彼はなんのつもりか私の頭をガッツリ抱き抱えるように撫でる。
…千秋さんの身体がかなり熱いことに気付いた。
「…それに対しては別に悪くはないが言っておこうか、下戸なのに調子こいて中ジョッキだったから今本当に勃つ自信ない」
「……え!?」
そうなの?
「んーまぁ免じて不履行にして欲しいもんだけどね、それはそれで恥をかかせる気もしてるってのは言わなくていいやつ」
「……確かに酔っているのだけは伝わってきたのですが、タイプじゃないとか言って頂いた方がなんというか…」
「思わせ振りだって?わりとタイプだよ」
「………もぅどう返事をしていいかと…」
ははは…と少し温度が低めに笑った千秋さんは私を離したのだけど、ぼんやりどこか、いや、前は見て普通に家まで歩いている。
…そういうモヤモヤする返答というものもあるのか。
そういうのは今の私と同じで、言った方がモヤモヤするものかもしれないと、私には色々と自分のことが、降り被るように思い起こされた。
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