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 俺がカメラから目を離し、上里はよく眺めてから「え?え?え?マジ?」と混乱する。

「…一度確か、2回目あたりだったか、吉野の代理で写真受け取りに来た…」
「………あっ、」

 カメラを下げた。

「あのときはサングラスだったけど」
「…言われてみればそうかもしれない」
「まずいな…」

 …確かに、お抱えではないけれど。

「…ちょっと社長に電話入れるわ」
「ムリだよ、一応俺達そーゆーの知らない設定じゃん、」
「じゃぁどーする。がっつりとおっぱい吸ってる吉野の部下だぞ、キレーに」
「……バカだねぇあいつら」

 沈黙の末。

「…待つか。ホテル入るのをなんとなーくいまいち微妙な感じで撮ったらよくねぇ?」
「うーん」
「よくよく考えたらカーセックスは撮れなんて言われてな」
「レコーダーまわしてたかお前」
「……まわしてなかったけどっ!西浦ちゃんは?」
「まわしてないな急だし。そしてじゃぁ写真はお前が撮れ。俺最近めっちゃ良く撮るって気付いたし」
「…えぇぇえ〜……!」

 投げやがって!と言うがいや、お前が言うかよ。

 向かいの車内でバシバシ始まっているなか俺は社長に電話を掛けることにした。

「もしもし」
『どうだやってるか』
「超ヤってますが問題発生です。
 この男先日事務所に写真取りに来た吉野の部下ですね多分」
『……はぁ?』
「前回はサングラスでしたけど。どーしましょおっぱい吸ってるとこ激写しちゃったんすけど」
『…マジか…』

 上里は黙ったまま車を眺めていたが、すぐに俺の方を見た。

「…流石に知らぬ存ぜぬじゃ通せませんよ社長」
『…どうにかなんない?』
「……取り敢えず、まぁ言うてカーセックスは撮れって言われてないし…それ以外をなんとか上里のクソみたいにセンスがない写真で凌いでもいいですか?」
『あぁ確かに上里はそーゆーの上手いからな…。まぁ状況はわかった。ちょっと調べる。吉野の方が偉そうだったらそれでいいし藤川の方がやり手だったらそっちでいい。必要ならちょっとコンタクト取っとくわ』
「畏まりました」

 切れた。

 恐る恐る見ている上里に「次の写真係りはお前だ上里」と告げた。

「…マジかよ」
「社長が調べるってよ。一応どっちも持ってくけど、吉野の方が上ならコンタクト取っとくってさ」
「…それお抱えになっちゃうじゃん」
「いやまぁ…考えてみたら俺らパパラッチでもなけりゃやーさんなんて知らなくね?」
「……それ通用する相手かよマジでぇ、」

 泣き言を言う上里に「そもそもお前が言ったんだからな」とカメラを押し付ける。

「…やりようねぇしもういいや、耐えよ耐えよ、今は」
「この状況で言うかそれぇ!見ろよあいつらもー曇りまくってるよぉ人の気も知らないでぇ!」

 自棄になったように上里はパチパチパチパチと曇ったガラスを撮り始める。
 …現在17時48分。ハッピーアワーまであと12分だ。もう、知らない。なるようにしかならない。こーゆーのはもう手出し不要だ。

 それから18時5分に二人は車を降りて行った。手を繋いだ後ろ姿や、ロイヤルホテルに入る二人やら、浮気の証拠としてなら不十分に近い証拠を残し、素直にさっさと事務所に帰ることにした。

 帰って早々に社長に写真を確認してもらえば、見事に上里の写真が採用された。

「いー具合にボケてんな、たまには役に立つなぁ上里」
「……5枚っす」
「仕方ないな」
「どうやって乗りきろうと」

 会議している間に奴はしれっと現れた、18時48分。金曜は20時までだったはずだと最早遠く考えていれば「あぁ藤川さん」と、言った社長の声は低く、充分に緊張感があった。

「どうだ」
「…手始めに西浦、まず電話の音声データを」
「…はい。藤川さんメアドか、捨てアドのなんでも良いんで通信出来るもんくれますか。電話番号でも構いません。それか、大したことでもないのでお聞かせするだけでも」
「それでいい」

 あっさりそう言うので学校への電話を、音割れしない大きさで流した。

 それについては聞いたあと、なんの反応も示さず「で、」と先を促してくる。

「…そのことなんですが藤川さん。
 写真をご確認頂く前に、私が確認したところ、お間違いでなければもしや吉野組のタナカさんという方ではありませんでしたか」
「そうだが?」
「…ご冗談が過ぎる。今朝貴方もおっしゃっていたじゃないですか、ウチは」
「それは個人情報じゃないのか?社長」

 挑発するように言った藤川翼の一言に一瞬間を置いてから「ナメてもらっちゃ困るなぁ…」と、珍しく社長が強気だった。

「…だが確かに、我々には関係のないことです。それを踏まえてあんたが納得する額の仕事は、残念ながらウチでは出来ていない。5枚だ。上里、印刷しろ。
 しめてウチの価格では74,500円となります。西浦、すぐに明細書出せ。
 それ以上はもしご希望であればまたお越し頂き依頼内容のご相談を承ります。こちらは本件についてそれ以上も以下もない、なんせ急だったんで」

 話している最中に上里が印刷した写真を社長に渡し、そのまま藤川翼に横流しされる。
 写真を一枚一枚眺めた藤川翼はしかし特に感情も込めず「ふぅん」とだけ言った。

「まぁ確かに丁度良いな」
「はぁ、」
「封筒の中にはいくらあったと」

 俺は急いだ明細書を「内訳です」と、しれっと渡すのに専念した。

「御用意頂いた額より遥かに安く済みま」
「あのなぁ、」
「ここは安い事務所ですので、はい」

 封筒のまま金を返せば「そうか」とだけ言った藤川翼はニヤっと笑い、わざとゆっくり諭吉を8枚数えては「意味わかるよな?」と社長にそれを叩きつけるように渡した。

「まぁ釣りはいい。次までに磨いておけよ」

 最後まで偉そうにして、そして「行くぞ」と藤川翼は事務所から出ていった。

 完全にドアが閉まり少ししてから上里が「はぁぁ〜…」と息を抜き、「なんだあのクソガキ」と社長が息巻く。

「あとは知らんっ。潰し合えヤクザなんて」

 今日は休日だったんじゃないか。
 まぁ、俺には明日からだと、「じゃ、先に帰ります。お疲れ様でした」と、俺も皆と同じ、もう開き直ってしれっとしてやれとどんな反応も無視し、一人帰宅することにした。

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