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一体どこへ行くのかはわからないが、割りとすぐに学校付近に差し掛かり、考える。
けど、なんだかそれすらも遠く感じてくる、午後。
「学校、この辺なんです」
「ん…?
あ、そっか…結構来たな。
あれ、府中だったよな家」
「ええ。車の方が早くて、なんかぱっといま現実に戻ったような感じがします」
「電車とかどんくらい掛かんだ一体」
「…千秋さんの家、微妙な位置ですよね。学校へは15分くらいで」
「…あーそっか、新宿…渋谷あたりも15分くらいでは出られるのか。乗り換え…るよな?」
「ですね」
「すげぇな俺ルート検索無理だわ、多分、異世界路線あるだろ」
「……ん?」
「京王線」
確かに、使うことがないならどこに行くかわからないかも…でも…。
「…異世界って…!」
流石にその表現は初めて聞いた。面白い。
「いや素直にどこへ飛ばされるかわからん、本当に新宿まで行ってくれるかと不安になる」
「よく言いますよね、慣れれば…いや、特急とかまぁ、言いますけどね。通勤は電車なんですか?」
「そうだよ、一応」
「…歩きましたねぇ、駅まで」
そこまでは歩かなかったけど、駅からわかりにくかったなぁ、千秋さんの家。
「そうか、この辺なんか学校…」
「はい」
「どうせなら少し先まで行くか」
「え?」
「瑠璃の家あたりは最早有名だろうよ新撰組」
「…確かにちょっと先ですけど、あまり別に…」
「地元ならそりゃそうだよな。俺も真田はピンと来ないし。高幡不動で合ってるか確か」
「…詳しいですね千秋さん」
「嫁がなぁ……めちゃくちゃ好きだったんだよ、何故か。女子人気高いよな新撰組。でも、司馬遼太郎とか…そういう、字は読めない女だった」
「私も読んだことないな…」
「女の子はあんまり読まないか。元祖なんだぞ司馬遼太郎は。有名にしたのも司馬遼太郎らしい」
「…そうなんだ」
あまりにも馴染みすぎていて全然興味もなかったな…。
「面白いですか?」
「まぁ、」
「じゃぁ読んでみようかな…」
…あ。
「…谷崎さん、そうだった…」
「まぁ本なんてたくさんあるからな」
爽やかに言った千秋さんは、確かに最初よりは楽しそうだった。
宛もなく、こうしてドライブする。勿論、初めてのことで、意外と頭はスッキリした気がする。
「ドライブっていいよなぁ。知らん場所に行くのがいい」
「ですね。読書と違って考えないけど…」
景色は移ろいゆくもので。
空っぽだからこそ自然と、「嫌だなぁ学校」だなんて出てきた。
「さっきのメールも、振っちゃった援交男子でした」
「あぁ、そうなの」
「お前の事ばかり考えてるとか、自分を大切にしろとか、もうなんか…」
「正論だけどな。まぁうざったいのはわかる気がするけど、俺はそいつの気持ちもまぁまぁわかるぞ、男だからな」
「…ですよねぇ。私も、なんか、」
「素直なことは良いことだけど、拗れると厄介だ。振って正解な気もする。相性悪そうだ、なんとなく」
「…そうなんですかね?」
「押し付けるのは大抵が男で、擦り付けるのは大抵が女だからなぁ」
「……なにそれ凄い…」
「何が?」
大人ってそういうものなのだろうか、なんだか栞を挟みたくなった。
しかし千秋さんは「しょーもねぇわ、」と少しやり場が無さそうにタバコを咥える。
もしかしてなんだか受け取り方が違かったのだろうか。
確かに。
「…先生とのセックスって確かに物足りなくはあるけど、押し付けられること、なかったのかも」
「…は?」
「いまの、そうかもしれないなぁと」
「…サクッと爆弾投げんなよ、ビビるだろ」
「まぁ、そっか」
「でも何故か瑠璃のいままでの話の中で一番同意感を感じるわ…それって解釈は、同性の先生で合ってんの?」
「はい」
「同性はなぁ、わかんねぇけどまぁ異性よりわかり会える…のかね?」
「どうでしょうね。同性だからダメなものもある気もしますよ」
「…俺のさっきのやつちょっと取り下げたいわ、お前の方が偏差値高くて普通に恥ずかしい」
「そんなことないですよ」
「…ははっ、」
しかし千秋さんは笑った。
「空っぽだなぁ、お前も」
「です、はい……うん、そうですね」
「生意気なやつ。
あ、もう駅ビルでいいか?なんか、見た目超物あんだろ、思ったより発展してんな高幡不動。司馬遼太郎の恩恵だな、程好い田舎具合で車も停められそうだし。正解だった」
楽しそうだった。
どうしてか、明るくなれる。
少しだけ買い物をして、ご飯を食べて、なんでもない会話をして考える。凄く…まるで昔からの友人のような親しみと…何とも言えないような、鋭い感情も覚えた。
ただ彼は、それでも遠くにいるような気が、どこかでしていた。
まるで、異世界なのかもしれない。
不思議な気持ちで、これは一体なんだったのかという「デート」とは違うものを終えた。
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