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実質、こういった施設を訪れたのは人生初めてで、これからも余程なことがない限りない筈だ。
児童相談所に着いた。依然、多分俺は少し無関心に近い心境なのだろうと感じる。
当の本人は表情を見てもやはりわかりにくい。もしかすると、実は来たことくらいあるんじゃないかと思えたが、役員と目があって「こんにちは」「どうぞ」と促されて案外、ピシッと硬くなったのが見て取れた。
ちょっと、意外だった。
いや、これは当然なはずだけれども。
「今日はどうされましたか」
男、俺と同じくらいか30代くらいかの。
「いや、」
案外俺も、瑠璃に言った割にはいざとなれば何をどう役員に話すものなのかと少し焦った。
「…この子のとで相談があって来たのですが、」
よくよく考えればこれは行き当たりばったりに実は近いのではないかと思えるほどに纏まっていなかった。
実質、そうか異常事態だったなと喉が詰まりそうだが「はい、どのようなご相談でしょうか」と、男の役員がまるでぐいぐい来るようで怯みそう。
情けないな、どうしたってんだ。
「あの…私いまこの人に助けてもらってるんです」
しかし瑠璃が、まるで早口で言ったことに…ほんの一瞬だけすらっと、頭が白くなりそうだった。
促すように男は瑠璃を眺める。
「あの、私、家で虐待…?を受けてましてこの人が助けてくれて数日預かってもらってて」
「…虐待ですか。どのような、」
「あ、兄から、暴行…あの、」
しかし急に瑠璃が黙ってしまい、落ち着かなく俯いたことに、却って冷静にならねばと自制が働いた。
「はい。私こういうものなのですが」
名刺を役員に渡す。
「探偵事務所…」
役員はやはり、状況に怪訝な顔だが、「この子のお兄さんなんですが、」さて、何を、話したら。
「…この子の家、両親がいないようでして。私はこの子とはたまたま仕事で出会ったのですが」
「えっと、西浦さん、ですね。貴方はご親戚か何か」
「ではないです。会ったのも一週間ほど前にでして…まぁ他人なんですが」
名刺を眺めては「…ユキトキさんと読むんですね」と、きっとチアキと読み一瞬戸惑ったんだろうな、少し役員の表情が緩和した気がする。
「…お仕事、というと」
「探偵なんですが、私の仕事の中でたまたま彼女と出会いまして今に至るのですが…顔も合わせて間もないですが、私の電話に助けてと来たもので、数日保護…?しています」
「…ご両親、いらっしゃらないんでしたっけ」
「はい、えっと、経緯から行きますと、その…お兄さんから彼女が暴行されていまして、SOSを受け現場に駆け付けたら状況が状況で…先週の木曜日だったのですが…えっとこちらに伺うことも考えましたが、何分急だったので金曜日、私は仕事がありまして、土日も挟み本日と」
「なるほどですね。一応ですと、」
「はい、そうだと思います。自分でもどうしたものかとその場では…」
「…確かに、まぁ、そうですよね。
元々お知り合いであった、というわけでも」
「ないです。が、仕事の関係上私は彼女に名刺を渡していたので、この子が俺にと…なんなら、やりとりした通話の録音もあります」
「…なるほど、ですね。
えっとお名前を頂戴しても宜しいですか」
俯いた瑠璃は少し落ち着いたのか「藤川瑠璃です」と、さっきよりはちゃんと喋った。
「藤川瑠璃ちゃん。
家族構成を教えて貰ってもいいですか」
「…お母さんはお父さんと…再婚しているかはわかりませんが、お父さんには子供がいて、私はお母さんの連れ子です。兄とは血の繋がりはなくて…。
お母さんはいまいません。お父さんは刑務所に入ってます、お兄ちゃんは……よくない仕事を」
「よくない?」
「……やくざ屋さんです」
瑠璃が言いにくそうにしたが役員があっさり「なるほど」と言ったことに、なんとなく肩を下ろしたように見える。
「虐待というのは、いつからでしょうか」
「…ちゅ、う学校の、二年生で、」
「今、おいくつなんでしたっけ」
「わたし、ですか?」
「はい。それぞれ家族の方も」
「私はいま、高校3年で、お兄ちゃんは22です、お父さんの変わりに働いてます。
お父さんは…54…5になりました、多分。お母さんは43の時の私が中二のときにいなくなっちゃって」
…いなくなった。
「…もしかするとお母さんがいなくなっちゃった頃から?」
「はい、あの、父と兄に」
俺はケータイにイヤホンをつけ、フォルダを漁り役員に提示した。
イヤホンをして聞いた役員は「あぁ…」と神妙に呟く。
「…なるほどこれが先週の木曜日なんですね。西浦さんは事情については把握なされているのでしょうか」
「一応少しはまぁはい…木曜からちらほらと聞きました」
「なるほど。瑠璃ちゃんは相談…例えば学校や親戚など」
「親戚はいません、」
少し気も上がってるのだろう、声が少し荒くなった。
「頼れそうな方は」
「この人しか」
「なるほど…。
うん、こうなってくるとね、確かに瑠璃ちゃんをお家には帰せないと思うんだけど、そうなると…瑠璃ちゃん高校三年生だっけ」
声を掛けられながら泣き始めた。
堪えたものが我慢出来なくなったように。
「18歳には」
「………来月に、なります」
そうだったのか
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