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「来月の、何日かな」
「15…」
「そっか。
 一応今は18歳未満だし、学校も行ってるのかな?そうすると卒業までとか、瑠璃ちゃんをサポートしなきゃならないと思う。一番は里親か…でも期間も期間だから、大体は施設に」
「そんなものっ、兄や父と変わりなんてないじゃないですかっ、」

 突然怒る情緒不安定な瑠璃に役員は一瞬黙り、「でも、他にないでしょ?」と返す。
 答えられず涙に震える瑠璃に、俺は取り敢えずハンカチを渡した。

 黙った男の役員は困り慌てて「ちょっと、ちょっと待ってね、」と、他の役員を探しに行ってしまった。

「大丈夫か」

 うんうんと瑠璃は頷く。

「…やっぱり、嫌だ、」
「うん、まぁ」
「千秋さんならいいっ、」

 …やはりそう来るか。まぁ、かなり想定していたけれども、なんだかんだそれは口から出なかったような…出ていたような。

「…まあ俺はダメだと思うよ。安定してないし若いし他人だし」
「…わかりますけどっ、」
「俺はそんなところに采配を投げたんだ瑠璃。わかるよな」

 敢えてこう突き放してはみたが。
 いや、それもどうなんだろうか。事実だけど、想定していたからにはそうか、俺はそこを「別にいいかな」なんて思っていたのかと今気付いた。
 里親など猫でも犬でもねぇのにだなんて、確かにいま思っているらしい。そもそも…そういえば会った時から大事だと捉えていたもんな。

「………そうは言うが、」

 いや。止めておこう。
 だが瑠璃は「なんですか、」だなんて、やはり言葉は拾われてしまう。
 いや、そんなものに意味なんて、

「選択肢に遠慮は…いらないから」

 ないっていうのに。
 口から出任せが出た気分で居心地が悪くなった。

 どう考えても俺ではどうも出来なくて…こいつの未来をこいつに任せたいだとか、そんな理屈じゃない、どうにも出来そうに多分、なくて。俺じゃない方がいい、だが、じゃぁどうするんだという瑠璃の怒りがあったとすればそれは当然だ。

 あと少し、考える時間?
 それはここにいるあと数十分の話だろうか。
 それで本当にいいのだろうか。

 顔を上げた瑠璃の泣き顔なんて見れない心境だったが、歳かな、見てしまえばどうしてこちらが切なくなる。ストックホルムに似た思考の支配、感情移入なんだろうか。
 冷静でいなければならないのは役員の次に俺だ。同情など、ただの自慰だ。そういう問題じゃないのに。

 先程の役員は、40代くらいの小綺麗女性を連れてくる。
 女性役員は名札を見せながら「どうも…」と、まるで同情の目で瑠璃を覗き込んだ。

 なんなんだこの女は。でも、当たり前かこれが仕事だ。
 立派なはずの役員に何故か一瞬、そう思ってしまった。

「栗原と申します。
 少しだけ聞きましたが、もう少しだけお話しを…瑠璃さん、あちらでお伺いしても宜しいですか」

 女性役員が促したのは個室のような箱だった。

 瑠璃はもう、きっと心は開かなそうな、不服な顔をしながらも、女性役員に連れられて箱に入っていった。

「えっと、西浦さんにもいくつかお聞きしたいのですが、」
「自己紹介ですかね。28の高卒、長野の上田出身です。
 月収は15〜20…行って2かな…と開きもあり、まあ、あまり安定はしていないだろうと思います。バツイチです」
「…そうですか。一応書類はお持ちしたのですが、その前にお話しをと…例えばもしも、ですが、里親等の話になれば…いや、まずは、瑠璃ちゃんについてどうお考えでしょうか」
「そうですね…心境としてはまぁ、この後についてなんて、俺が決めることじゃない。俺としてはどちらでもよくて、連れ出してしまった手前、彼女に任せようと考えてます」
「なるほどですね、まぁ、もしもの時は良い、と」
「そうですね」
「…そうなった時、心配事などはありますか。例えば金銭面だとか」
「そうですね、そうなったらこちらでまた相談ですが、」
「…一応、里親などに関しましては金銭の援助などもあります。が、…そうですね。
 うーんとこれから聞こうかな、保護した詳しい経緯を…もう少しだけお願いできますか?」
「先に言っておきますが不信の払拭として、俺は特に彼女と肉体関係があったやら、そういうのはないです」
「…は、」
「いやそこ不信かなと思ったので先に」
「…まぁそうですね」

 なんと答えようか、迷ったらしい。
 微妙な空気になった。だがこちらはどうせと、スッキリした。

「で、ですが。経緯として勿論仕事の顧客情報などもありますからざっくりになってしまいますが、とある人の浮気調査をしていた線上で出会いました。
 彼女、援交などもしていたようで、理由やらは詳しく本人から聞いてはいませんがそこは…」
「あ、そうですね。まぁ別の役員が」
「ですね。そういった経緯で彼女とは対面しています。
 あとは…そうか、お答えするのは何故すぐにこちらに来なかったか、は言いましたよね。口先で結構ですが本当にそういった理由でした」
「…まぁ、そこについては正直こちらは問えませんが…」
「そうですか。あとは家族構成でしたっけ。母親のみです。離婚は5年かな、くらい前に。あと俺が答えることはありますか?」

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