陰と陽


「いい加減彼女とかさぁ、いないの?」

いよいよ一喜にそんな心配をされてしまった。俺としては君のその奥手さに、充分気長に見守っているのに。

「はは、それは一喜にあげたからいーよ」

まぁ、彼女は俺には勿体無いよ。君くらい純粋なやつの方がいいし、何よりその気じゃないか、お互い。

「人聞きが悪くないか。だってさ」
「遊びたくなんないかって?」
「うっ、」

はは、本当に君ら、全然進まないんだから。

「なーらないよ。俺わりと君よりまともなヤツだから」

去年より、別の意味で、やっぱり一人も心地良いんだ、正直。

「…まともなら本来19って遊び狂ってるよ。お前早かったんじゃないの」
「あったねー病み気。で、小夜ちゃんはどう?」

君らはけれど、確実に歩んでいる。照れた一喜が俯いた。

「いきなり来るか普通」
「いくいくー。デリカシーないもん俺」
「はぁ、あっそう」

幸せなんじゃないかなぁ、このモヤモヤだって。やっぱ、俺にはなかったなぁ、そういう純愛。

「なんだか見てると、まぁ…」
「ん?」

一喜と出会って、10年少し。彼女と出会って3年くらいで、龍平が旅立ってから、もう少しで帰ってくる。

「いや。今年も来たなぁって」

そして、透が死んで4年になった。

「…今年は早かったな、紫陽花」

感慨深そうに一喜はふと、道端の紫陽花を見ている。

「ん?」
「毒あるらしいよ」

紫陽花に毒があるのか。それはなんとなく、一喜が熱を入れている小日向さんからの情報なんだろう。

「なにそれ、小夜ちゃん辞書?」
「辞書とはなんだよ」
「あーめんどいね一喜」

本来一喜はそんなこと、なんというか興味を持つ奴ではなかったんだけど。

「いや、あのねぇ…ってちょっと待てよそれ人ん家のじゃねぇの?」
「道端だよ」
「多分誰か植えたやつじゃん」

情緒的じゃないか。道端の、こんなに綺麗な梅雨の時期に咲くこの大輪。これに毒があるだなんて。透は知っていたのかな。

「くる?」
「あ、」

そろそろ透の命日が近い。たまには実家に帰ろう。一喜と一緒に、この紫陽花をもってさ。

透、お前が好きな晴れた陽気だよ。あの雨の日から何度、そっちで見た?
それとも天は、雨でも晴れでも、見えないもんなの?

「…そうだね、まぁ…晴れてるしね」


「実家の鍵ならあるし。変わってるかな。ねぇ一喜、俺実家の鍵変わってたらどうしよう」
「一年も前だからなー、あり得るな」
「なんかマジっぽく言うなよ」
「ま、したら墓参りだよな」

染々とする一喜にも、やっぱり。
透、俺たちね、紫陽花に毒があるって知らなかった。いま知ったよ。だから、たまには兄ちゃん、お前に会いたい気がするよ。教えて、あげたい気がするんだ。

「丁度良いだろ、これ」
「それ毒あるんだって」
「ねぇよ多分。綺麗だもん」
「てかホントに人ん家のじゃないの、それ」
「でも綺麗じゃん」
「てか…」

綺麗な花には何かがある。
ホント、俺はいつだって、そんなことも知らなかったんだ。

「…見せてやりたいじゃん?」
「…まぁ、お前より文系だったもんね、透」

二人でなんとなく笑って、本当に突然だけど、まぁ、来た家を戻って。

「じゃ、まぁ行くか」
「多分、喜ぶよ」

喜んでくれるはずだ。
俺たちきっと、少しずつ、お前を捨てて昔に、戻る決意ができたから。

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