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「あっ、」
どうやら俺はマジで忘れ去られていたらしい。
とことんこいつはクレイジー野郎だ。だが、俺だって、そこまで気は長くないからな。
先程の喧嘩やら取り敢えず全体的なことを思い出して腹が立った勢いだった。思い出したのでグロックを抜いて樹実に向けてやる。
「おー、」
それを見た白衣眼鏡は素直に感嘆の声をあげた。
「度胸はあるみたいですね」
そしてさらに白衣眼鏡が少し、拳銃を下げてくれたのを横目で確認した。
樹実は小さく手を上げて降参のポーズをした。わりと、目はマジでビビっている色があるが、俺はそんなに生易しくない。
「流星、ちょっと怖いんだけど…」
「あ?こっちはイライラしてるんですけど」
「なんでよ」
「自分の胸に聞いてみて」
樹実の顎下あたりに銃口を当ててやる。
それを見た白衣眼鏡は、「ふっ…ははは、おっかしいなあ…!」と、優雅に笑い、完全に銃を下げたようだった。
救ってくれと、白衣眼鏡のことを樹実はちらっと眺める。
「いや笑ってないで助けてよ」
「助けてじゃねぇよクソ野郎」
お前が全部悪いんだクソ樹実。
「もしかして、あなたの拾い物って、その子ですか?」
「…そーゆーこと。だから助けて」
は?
拾い物?
「嫌ですよ。
君、気に入りました!もっとやっちゃってください!日本で茅沼樹実に銃口を向けるのなんて君と僕とスナイパーくらいですよ!」
「勘弁して勘弁して!ごめんって!俺が悪かったから!」
よりムカついてきた。大人たちに。
わかるんだよ、そんくらい。
「あぁ、もう!」
イライラしながらも拳銃を下げる俺に、樹実が安心したのが見てとれた。そりゃ、そうなんだけど。
「案外優しい子で天の邪鬼。いいですねぇ。お名前は?」
「うるせぇな…」
「おやおや…」
本気でキレそう。
言ってしまえば収まりつかない。
「なんなんだよ、これ」
「だから、流星、」
「…樹実、あんた俺をなんだと思ってんの」
「…は?」
ちょっと焦ってんのとかさ。
ムカつくんだよクソ野郎。そうやって、俺の慈悲をくすぐる、そんな人柄とかも。
「まぁいいさ。俺はあんたの…世話係でもなんでもない。ここでこの人に何かを学んだからなんなんだ。だがそれはいい、俺が決める」
「…そうだな」
あんたが言うなら間違いない、行ってきてやるよ。
ぜってぇそんなの言ってやらないけどな。
拳銃はしまった。
けど少し。
スカッとしたよ白衣眼鏡。樹実のこと、わかってやれるの、俺くらいかなとか、俺みたいなガキだけかなとか、思ってたから。
樹実、まぁあんたが言うように、自分のためにやってみようと思うよ。
多分樹実はちょっと凹んでいるだろう。けど、まぁ、何気に心配や信頼してるのなんて…。
あー、ちょっと笑える。
そんなのあんたは、知らなくて良いよ、樹実。
顔をあげれば白衣眼鏡は、心なしか慈しむような、優しい笑顔を浮かべている気がする。白衣眼鏡のポケットからタバコを取りだし、一本咥えるのが大人の余裕に見える。
見られたかな、俺のにやけ。まぁ、いいけどさ。
「お預かりいたします。1587円はチャラでいいですか?」
白衣眼鏡は樹実に言う。
「ああ、その失礼なクソガキが礼儀作法を三日でちゃんと学んできたらな」
と皮肉を返すだけで、なんとなく二人の親密さがわかる。
「ふふ…僕もそれは苦手なのでどうかなぁ。あなたよりはまともな子になるでしょうけど」
「よく言うよクソ野郎」
「はいはいゲス野郎。
さぁて、君、確かに僕から名乗るのがまずは最初の作法でした」
白衣眼鏡の前で彼を見つめれば、彼はタバコを捨て、爽やかスマイルを浮かべた。
「初めまして。|防衛省《ぼうえいしょう》|海上自衛隊《かいじょうじえいたい》二等海佐、熱海雨です。樹実とは残念ながら腐れ縁というヤツです。そんなに硬くならないでくださいね、お見知りおきを」
なんだろう、呪文が全然わからない。
あんたの笑顔、すっごい呪文と不釣り合いで若干ビビる。
「は、初めまして。壽美田流星です…」
「はい、良くできました。では行きましょうか」
それから俺は、熱海と名乗った白衣眼鏡に、引きずられるように奥へ連れていかれた。
最後見えた樹実は、凹んでいるかと思っていたのに、満面の黒い笑みで手を振って俺を見送ったのだった。
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