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飼い主に、似るか。
僕はね、樹実。
君に伝えてないことなんて、山程あるんだよ、ホントに、そう。

 夜の海軍訓練所の屋上で、ケータイ片手に相手を思う。

「君だから言うんですよ、樹実。僕、友達いないから」

君はどうして流星くんを、僕なんかに預けたんだろう。彼はとても、優秀で。
君と凄く似ているなぁと、本当は思ったんだ。

 体重を預けた防犯用の手摺りが冷たい。こんな空の下、僕はどうして、電話をしてこんなことを思うのかな。

ダメだね、色々、君とはありすぎたよ。

「そうそう。君、ベンジー派でしたね」
『…は?まぁ、好きだけど』
「…彼はミッシェル派らしいですよ。僕、思わずリンゴさんとスターリンを貸してしまいました」
『…仲良くなったようで何より。よかったよ。
 俺もね、お前だから預けたんだよ、雨』

また君はさ。
僕の気持ち、他人の気持ちなんて考えずに、そうやって自然体で心に、言葉を残すんだから。

「…そうですか。
 残業、頑張って下さいね」

 そう言って僕から電話は切った。
 彼と過ごした三日で、僕は久しぶりに君に会い、こうして回想なんかしている。画面を見つめて考えた。

「嫌になっちゃうなぁ…ホント」

 誰も聞いていない。夜空の、一言。
 何に対して、呟いたのか。

栗林一等海佐をぶん殴ったの、これで二回目だっけ。
僕にも、そう、今は大切な物がひとつ、増えたんだよ、樹実。

 今頃お腹を空かせているだろう少年を思い浮かべた。

 出会った頃の彼は…。
 酷く淀んだ目をしていた。はっきり覚えている。

 確か…、
あれは欧州遠征で帰って来た時のことだったか。
 僕が帰国した時はまだ、前|防衛大臣《ぼうえいだいじん》|星川《ほしかわ》|匠《たくみ》は生きていたのだけど。
 それから少し後に会った星川匠は心臓を撃ち抜かれて棺桶に突っ込まれていた。

 その、体裁で行った葬儀で見かけた10歳の少年。
 何も無い表情でただ、父親の位牌を手にしていた。

 位牌を持っていたから息子だとまわりは認知したが、そもそも防衛大臣に息子がいたことを知る者はいなかった。
 息子はどうやらそれなりに良い国立の幼稚園から小学校に通っていたらしい。しかし何故防衛大臣は息子の存在を公言しなかったのか。

 当たり前にわかる。
 前防衛大臣星川匠は、名の知れたタラシ野郎だった。奥方もそれを黙認していたようで。
 だからこそ位牌を持った彼が、奥方の|律子《りつこ》に目元や鼻筋、肌の白さと瞳の色が似ていて皆安堵した雰囲気が漂ったものだ。

 ただ、彼は年のわりに大人しい子供だと言う印象を受けた。
 「さすが防衛大臣のご子息」とまわりは申し訳程度に称賛していたが、僕は違う印象を正直に持った。

もともと僕は子供なんて嫌いな分類だった。
だって、何を考えているのか全くわからないし。

 特にこの子供はそう。他の子共なんかより遥かにわかりにくい程に、感情が読み取れない。父親の葬式ですら表情ひとつ変わらず、ただ淡々と時が過ぎ行くのを待っているように、僕には見えて。
 だけど時折顔を上げる表情、目にはなにか感情はありそうで。

 僕の彼に対する印象的は、
可愛くねぇガキ。
このひとつに尽きた。

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