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それから、更に一年。
俺と流星は、リボルバーとオートマチックの違い、銃の重さを知り、二人で警察学校を卒業した。
そして互いに、“|厚労省《こうろうしょう》国家特別テロ捜査本部”、樹実さんが作ったその部に配属された。
この部署には厚労省やら|警察庁《けいさつちょう》やら|警視庁《けいしちょう》やら、様々な警察組織から茅沼樹実がヘッドハンティングした人物が詰め込まれた。
左遷扱いの者もいれば、出世軌道に乗った若者までいて。
それぞれはどこかしら特化した何かを持っている人物ばかりで。要するに寄せ集めで、最早樹実さんが私物化している面はあった。
後の特本部のあり方に非常に似ているのは、この頃駆け出しだった流星がこれを背負うことになったからに相違ない。
俺らが追うことになったのは謎の組織、『エレボス』というものだった。
調べあげた犯罪経歴だけでも、麻薬密売や人身売買、行政機関へのテロ行為。最早日本組織に未だかつてない膨大さだった。
しかしそれほど膨大ながらも尻尾がまるで掴めない。
雲の上を目指しているかのような虚無感が漂っていた。
雨さんも忙しくなったようで、自宅でパソコンを叩くようになった。彼は彼で確かに忙しい役職ではあるが、大抵は家に仕事を持ち込まないタイプだったのだが。
夕飯のオムライス(スクランブルエッグかも)を食べながら、俺と雨さんは振り返ることがある。出会ったときのことやら、なにやら。出会ってからたくさん、あったんだ。
「樹実がね、
乗り込んできたとき、「カッコいいでしょ」何て言って、いまや、流星くんにあの時の銃を、渡したんだそうですよ」
「そうなんだ」
サブマシンガンを背負っていたと言う、樹実さんを思い浮かべようとする。
なかなか、それだけは思い浮かばない俺がいる。それは、それからずっと先もそうなんだ。
「僕は今の君といれて幸せなんです。だからよかった。あの時あのまま放っておいたら僕はきっと、腐ってた」
俺だって。そうなんだ、雨さん。
「…そこまで褒める?」
「褒めてませんよ。
潤はどうですか、いまは」
「うん…」
改めて言うのはなんだか照れる。
「ありがとう」
「…照れますね。こちらこそありがとう」
まぁまぁその時は幸せで。
雨さんと出会う前の俺は、感情を圧し殺す毎日の最中、俺はとても楽に窮屈だった。そして擦り切れていたから。
彼はその時俺に言った。
「もしも僕が人でなくなったら、あなたはまず何をしてくれますか」
と。
正直、そのころはよくわからなかった。
「うーん。難しいけど…。あんた訓練所ぶっ壊しても人だからなぁ。そんとき考えるだろうけどまぁ多分、俺も人の道は外れる」
「え?」
「俺そんな強くないし怠け者だから。道標はずっと変えないの」
「…そうですか」
ずっと、あれからずっとね。
俺の道標のような気がしてるんだ、あんた。
「ごめんね潤」
「なんで謝るの」
「僕は…」
だけど時々切ない顔で考える。
その時の俺はそれがなんだか、嫌だったんだ。
「親友でいられますか」
「保護者でいてください」
とても。
感性は行き場が自由である。
「そうですね」
思い返してみればこれは、二人の中の唯一の約束であり束縛だった。
雨さん。
俺は親友でいるべきだったのだろうか。
あの時にもっと考えていたら、未来は違うものへと変わったのかも、しれなくて。
不和のリンゴはいつ投げられたのか。トロイア戦争は然り気無く幕を開けていた。
終わりの始まりはそんな、些細で単純な幕開けだった。感情は忠実で、情緒は誠実。歪んだ瞬間から全ては、膨らんで歪んでいってしまったのかも、しれない。
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