13
半狂乱になり銃を流星に向けた澤村が撃たれた。
「流星!」
潤が叫ぶ。
「…潤?」
流星ははっと我に返ったように見えた。
そうか、そういう仕組みなのか。
あれは流星に。
あの死にかけた宗教団体から身に染みた防衛本能かもしれない。
そもそも、何故あのとき一人、生きていたのか。
しかし、「終わったか公安共っ!」と、追い出された信者達が一気に銃を構えて雪崩れ込む。
殺戮でしかなかった。
人を超越した殺傷能力。あれは本能のまま。
俺は流星すらも救えなかったんだ。
虚無感に銃を下ろす。
「流星っ…」
苦しそうに応戦しようとする政宗はきっと、そうとわかったに違いなかった。
「やめろ政宗」
声掛けるしか出来ない。
「…はぁ?」
「俺みたいになっちまったな」
「樹実…」
「悪いな政宗。これから俺はお前にまた、重荷を背負わすことしか出来ないな」
「何言ってんだ、樹実」
「下がってろ、政宗。俺の最期の償いだ」
教壇から降りて銃を構え、一発、上に向けて撃つ。
銃声に、皆俺へ注目した。
「流星」
悲しいもんだなぁ…。
あの日のことを思い出す。曇りのない目。今もそれは変わらない。
救いか、流星は俺の声に、自我がなくとも一瞬の間が生まれるようだ。
その隙を狙い、俺は流星の左側を目掛けて撃つ。
こいつは俺と違って左に癖がある。多分、俺が右が弱いから、気付かないうちに左に片寄って教えてしまったのだろうな。
俺らの後遺症は、もう治らないかもしれない。
「流星、タバコ。切れた」
互いに死ななければ。
左肩を押さえながらも、どうやら流星は正気に戻ったらしい。
そんなときでもポケットから新しい箱を出し、右手で投げてきた。
それを受け取ったら、ただ悲しいような、優しいような気持ちになる気がしていたんだ。あの、お前に預けた銃弾。それを思い出すから。
「バカ、火ぃ貸せ」
今度は、あの銃弾を隠したジッポが投げられた。
全然届かなかった。
仕方ねぇな、そんなんじゃよ、流星。
拾いに行き、その場に座り込んで口を炙って箱を叩き、一本取り出し火をつけた。
「あぁ、うめぇな」
「樹実、」
黙る。
何が言いたいか、話したいか。
なぁ、流星。
「どうして、あんた…」
「お前も野暮だな」
「どうして俺だったんだ、樹実、」
そう聞かれたら、言葉に詰まる。
泣きたくなるほどシンプルに、出てきた答えはひとつだった。
あの、星を眺めたお前が。
「羨ましかったんだよ、お前がさ」
「何よ、それ…」
「夜が羨ましいって言った、お前が」
吐き出す煙が、キラキラ光る。
ねぇ、そうだったんだ、ホント。
「多分、理由なんてそんなもんなんだよ、流星」
「だったら、なんでこんなことしてんだよ…樹実、」
泣きそうなのは、流星もそうらしい。
崩落が音を立てているようで。そのリズムはどうして、こんなに心地良いんだろうな。
「そうさなぁ…。
全部捨てた気でいたんだ俺は。甘かったな。人の情とかそんなん、俺にはどうでもよかったはずだったんだ」
「もっと…だって、」
「違う道かぁ。それもあったかなぁ。俺じゃなかったらきっとあったんだよ、流星」
俺はヒーローなんかじゃ、ないんだって。ホントに。
悪かったな。
デザートイーグルを俺は流星に漸く返した。
こんなとき、俺を殺してくれよと。流星に預けていたジッポをあけ、隠していた弾を取り出す。
雨が使っていたレッドホークに弾を詰め、銃弾を回て流星に向ける。
壊れ行く、世界へ。
ハンマーの乾いた音がする。
「ロシアンルーレットだ」
「樹実」
「そいつにはたくさん入ってるし|弾詰《ジャム》らない。間違いなくお前が有利だ」
「説明になってねえよ、樹実、」
「流星、」
自分でも情けないくらいに素直になれた気がした。
救われないなんて、傲慢だったな。
「一人を殺したら最後なんだよ、流星」
その目が。
「樹実…?」
声が。
お前は拾ったときの目となんら変わりない。あんなに綺麗な夜空だった。なぁ、広かったよな、世界はこんなにも。
「…わかったよ」
静かな声に夜を見るよう。目を閉じて考える。
そうか、
「引いて」
もう、お互い引き返せない。
ハンマーはもう、引いてしまったのだから。
「そう、そして、」
あの日の純粋な気持ちが、満ちていく。ああ、綺麗なもんだね、流星。
俺はずっと、
登る煙とステンドグラスと火薬の臭い。
安らかな世界はいつか。
きっと、流れ星に願いを託す、子供のように純粋な物なんだ。人を、愛するような、そんな。
──背中を、見た。
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