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 半狂乱になり銃を流星に向けた澤村が撃たれた。

「流星!」

 潤が叫ぶ。

「…潤?」

 流星ははっと我に返ったように見えた。
そうか、そういう仕組みなのか。

あれは流星に。
 あの死にかけた宗教団体から身に染みた防衛本能かもしれない。
 そもそも、何故あのとき一人、生きていたのか。

 しかし、「終わったか公安共っ!」と、追い出された信者達が一気に銃を構えて雪崩れ込む。
 殺戮でしかなかった。

 人を超越した殺傷能力。あれは本能のまま。
俺は流星すらも救えなかったんだ。

 虚無感に銃を下ろす。

「流星っ…」

 苦しそうに応戦しようとする政宗はきっと、そうとわかったに違いなかった。

「やめろ政宗」

 声掛けるしか出来ない。

「…はぁ?」
「俺みたいになっちまったな」
「樹実…」
「悪いな政宗。これから俺はお前にまた、重荷を背負わすことしか出来ないな」
「何言ってんだ、樹実」
「下がってろ、政宗。俺の最期の償いだ」

 教壇から降りて銃を構え、一発、上に向けて撃つ。
 銃声に、皆俺へ注目した。

「流星」

悲しいもんだなぁ…。

 あの日のことを思い出す。曇りのない目。今もそれは変わらない。
 救いか、流星は俺の声に、自我がなくとも一瞬の間が生まれるようだ。
 その隙を狙い、俺は流星の左側を目掛けて撃つ。

 こいつは俺と違って左に癖がある。多分、俺が右が弱いから、気付かないうちに左に片寄って教えてしまったのだろうな。

俺らの後遺症は、もう治らないかもしれない。

「流星、タバコ。切れた」

互いに死ななければ。

 左肩を押さえながらも、どうやら流星は正気に戻ったらしい。
 そんなときでもポケットから新しい箱を出し、右手で投げてきた。
 それを受け取ったら、ただ悲しいような、優しいような気持ちになる気がしていたんだ。あの、お前に預けた銃弾。それを思い出すから。

「バカ、火ぃ貸せ」

 今度は、あの銃弾を隠したジッポが投げられた。
 全然届かなかった。

仕方ねぇな、そんなんじゃよ、流星。

 拾いに行き、その場に座り込んで口を炙って箱を叩き、一本取り出し火をつけた。

「あぁ、うめぇな」
「樹実、」

 黙る。
何が言いたいか、話したいか。
なぁ、流星。

「どうして、あんた…」
「お前も野暮だな」
「どうして俺だったんだ、樹実、」

 そう聞かれたら、言葉に詰まる。
 泣きたくなるほどシンプルに、出てきた答えはひとつだった。

あの、星を眺めたお前が。

「羨ましかったんだよ、お前がさ」
「何よ、それ…」
「夜が羨ましいって言った、お前が」

 吐き出す煙が、キラキラ光る。
ねぇ、そうだったんだ、ホント。

「多分、理由なんてそんなもんなんだよ、流星」
「だったら、なんでこんなことしてんだよ…樹実、」

 泣きそうなのは、流星もそうらしい。
 崩落が音を立てているようで。そのリズムはどうして、こんなに心地良いんだろうな。

「そうさなぁ…。
 全部捨てた気でいたんだ俺は。甘かったな。人の情とかそんなん、俺にはどうでもよかったはずだったんだ」
「もっと…だって、」
「違う道かぁ。それもあったかなぁ。俺じゃなかったらきっとあったんだよ、流星」

俺はヒーローなんかじゃ、ないんだって。ホントに。
悪かったな。

 デザートイーグルを俺は流星に漸く返した。

 こんなとき、俺を殺してくれよと。流星に預けていたジッポをあけ、隠していた弾を取り出す。
 雨が使っていたレッドホークに弾を詰め、銃弾を回て流星に向ける。

壊れ行く、世界へ。
 ハンマーの乾いた音がする。

「ロシアンルーレットだ」
「樹実」
「そいつにはたくさん入ってるし|弾詰《ジャム》らない。間違いなくお前が有利だ」
「説明になってねえよ、樹実、」
「流星、」

 自分でも情けないくらいに素直になれた気がした。
救われないなんて、傲慢だったな。

「一人を殺したら最後なんだよ、流星」

その目が。

「樹実…?」

声が。

お前は拾ったときの目となんら変わりない。あんなに綺麗な夜空だった。なぁ、広かったよな、世界はこんなにも。

「…わかったよ」

 静かな声に夜を見るよう。目を閉じて考える。

そうか、

「引いて」

もう、お互い引き返せない。
ハンマーはもう、引いてしまったのだから。

「そう、そして、」

あの日の純粋な気持ちが、満ちていく。ああ、綺麗なもんだね、流星。
俺はずっと、

 登る煙とステンドグラスと火薬の臭い。

安らかな世界はいつか。
きっと、流れ星に願いを託す、子供のように純粋な物なんだ。人を、愛するような、そんな。

──背中を、見た。

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