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それからすぐに知徳と雪が、真っ直ぐに流星たちを聖堂まで連れてきた。
「樹実、」
ステンドグラスの光が当たる。困惑を張り付けた表情の仲間たちには悪役として、「よう、遅ぇな」と、
銃を持っていない左手を振って出迎える。
感情は静かに、狂気に満たされるような気がして。
「あ…雨さん…」
潤が雨を見て驚愕した。
お前のヒーローは俺が殺したんだ、潤。幼い日の泣く、綺麗な少年が頭をちらつく。
「なんで…、」
「さぁ、なんでかなぁ…」
「樹実…どういうことだよ」
驚愕の声は流星からも上がる。
「どういうこと?大方聞いてきたんだろ?
俺がエレボスを作り上げた、それだけさ」
「だから、どうして」
「愚問だな。そんな話をしに来たのかい?だったらもういい」
「樹実、俺たちはお前と話をしにきたんだ」
話に、来たか。
「俺はもういい。せめてこいつらにくらい真実を、お前の真実くらい、話してやれよ」
「俺の真実?なにそれ、全然わかんねぇな」
「高田から聞いたよ。
銀河、二人をよろしく」
「政宗、行くのか」
「あぁたまにはな。かっこつけてくる」
政宗が怒りのような形相で俺を睨んで歩み始める。
それを制するように澤村が憚るも政宗は、「雪、俺は女には手を出したくないんだ」と、いつもより低い獣のような声で言う。
「知ってますよ、現場監督官」
「知徳、頼んだ。
俺はな、そーゆーの好きじゃねぇんだ。こいつが退かねぇならてめぇを撃ち殺す」
政宗の剣幕に澤村と橋田は顔を見合わせる。橋田が首を横に振り、澤村は漸く政宗の行く手を明け渡した。
「悪いな。あいつぁ戦友なんだ」
戦友か、政宗。
そんなこと今まで言ったことなかったくせに。お前が家族をなくしたって、俺のエゴでお前はここまで…
連れてきちまっただけだよ。
「樹実」
「何だよパパ」
「ふっ、お前さぁ…」
政宗は雨の前まで来て死体を見下ろし、それから悲しそうに俺を見上げた。
「こいつ、少しだったが良い奴だったよ。潤の、…親だってな」
そうだよ。
「そうだよ、俺が殺した」
「高田創太は、所謂お前の親なんだってな」
「あぁまぁな。そうなるな」
「なぁ樹実」
「なんだよ」
「お前は間違ってないと思いたいんだ」
パファイファーツェリスカを向けてきた。こいつが支給品以外の、どこで手に入れたかわからんような銃を手にするときは、わりと本気の時だ。
「だが俺は、どうして何も知らなかった?」
「そうだな、悪かったよ」
「悪かったよ?ふざけんなてめぇ…。
お前、こいつは、熱海雨はお前の戦友じゃなかったのか。俺はお前の部下じゃなかったのか。流星はお前の…お前の大切な弟分じゃないのか潤は、お前が熱海さんから託された大切な親戚じゃねぇのか」
「あぁ、そうなんだろうな」
そうなんだよ。
みんな大切だったんだよ。
「樹実っ!」
「政宗、俺はお前がわりと好きだ。優しいなお前は」
政宗の向こう側、ルークに視線を送る。
瞬間、銃弾が政宗の真横を掠め、政宗は脇腹を押さえて踞った。
「…っ!樹実っ!」
「話しても無駄だな。俺には俺の終焉がある。お前じゃ優しすぎるんだよ政宗。お前じゃ俺を殺せない。ルーク、何故外す。こんなナマ言ってる奴、当てちまえよ」
「樹実はソレデいいの?」
それでいいだと?
「うるせぇなみんなして。
お前らなぁ、」
立ち上がり、脇腹を押さえる政宗にデザートイーグルを向ける。慈悲を捨てる。俺は新たな神として、
いや、悪としてお前らに終焉を与えるんだ。
「生温いこと言ってっと全員殺しちゃうよ?早く掛かってこいよ。こっちはヤニ切れでイライラしてんだ。おら早く来いよてめぇら」
「それがあんたの…望みか」
静かに、流星が呟いた気がした。
よくは聞き取れなかったが、冷めた流星の瞳に、
こいつは俺を。
久々に背筋が凍る感覚が身体に過った。
お前、もしかしてだけど。
次の瞬間だった。
流星は橋田が拳銃を持っていた手を素早く捕らえた。
誤射。
お前、…もしかしてだけど。
獣のように、あの綺麗な瞳は自我なく「そこを退いてくれ」と橋田に告げる。「…それは出来ません」と橋田が拒否すれば「あっそう…」と。
流星は鮮やかに橋田の、掴んだその腕を裏手に取る。
体勢を崩した橋田の額にグロックの銃口をめり込ませるように押し付ける様に俺は、昔の自分を見ているよう気がしてしまった。
お前、俺みたいになっちまったのか。
「退けと言っている」
「流星さん、貴方は」
「うるさい」
「流星、落ちつ…」
橋田が流星に撃たれた。
力なくなった橋田の死体を蹴り飛ばし、唖然とする雪を一睨みした流星は、こちらに進もうとするも、異変に気付いたルークが瞬時に止めにかかろうとした。
所謂瞬殺だった。
流星の前に立つ事なく、ルークの肺の横あたりに弾丸が一発貫通していた。
踞るルークを流星は見下ろしその背を踏みつけ「Get out of my way.(退け)」と、低く唸るような声で言う。
「Very well !!(上等だ!)」
ルークが立ち上がって銃を構えるより流星の一撃の方が速い。
脳天を一撃で射抜かれたルークは死んだ。
流星は感情もなくルークのその背負っていたサブマシンガンを奪った。
あまりにも鮮やかで、淡々としていた。
「やめろ、流星!」
銀河が叫ぶ。
唖然としていた潤も我に返ったようだが、振り向いた流星に明らかに引いている。
遠目、片眼からでもわかる。
狂気だ。
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