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「さて、恐怖とは果たしてどこから排泄されるものなのか、」
イツミはそう言いながら、俺から取り上げた拳銃のハンマーを上げトリガーを引いた。
カシャッ、バン。カランと弾が落ちる。
やはり、拳銃の音。火薬の臭いがした。
「ちゃんと使えるんだな」とイツミはそう言って拳銃を俺に返してくる。
それから、まだらの服の脇腹あたりを漁り、楕円形の丸いごつごつしたものを見せてきた。
「これな、」
イツミはその、楕円の頭部分にある、輪のようなものを指差し、
「思いっきり引っ張って投げると、投げた先が燃えるから」
そう言った。
「所謂爆弾。10秒後にはみんなゴミになる」
「……え、」
「子供に持たせるものじゃないですよね」
「なんで?」
「日本人として」
「まぁ置いといて」と、イツミはその爆弾を俺に渡してくる。
そして空いた右手は銃の形、それを自分の蟀谷に当て、「これで一発で死ねる」と、さも何事もないように言った。
「多分それなら頭、残らないから」
そしてニコッと笑う心理は理解出来なかったけど。
「…ホントに?」
俺はイツミにそう聞いていた。
一瞬イツミは光彩を動かしたような、そんな気がした。
「使えればの話だけどね。
ここは残念ながらいまからゴミクズになる予定。お前が良い子でも悪い子でも。
これからお前は生き残れば、地獄を見るだろう。そしてきっと神様に「殺してくれ」と頼むと思う。
あのなぁ、言っといてやる。お前らが信じたものは何一つ役に立たないよ。死ぬ前にそれを思い出したら幸いかもね。そしたら3日後には、神の皮を被った化け物が現れるだろう。その時、お前はどうするだろうね」
それだけ言ってイツミは俺の頭を撫でて立ち上がり、メガネの男に「さっさとやって次行こ」と、廊下を歩き始めるのだった。
「二階はもう終わり?」だとか、「貴方って人でなしですよねぇ」だとか普通に話ながら去る彼らに、俺はなんの言葉も出なかった。
しかしふと、大人達は一体、悪魔にどうやって殺されたのだろうと部屋を覗いてみることにした。
凄惨。
まさしくそれだった。
白い部屋は赤黒く汚れていて、あの大人もそう、全員見知った顔ぶれは男も女も関係なしに手錠を掛けられたり、縛られたりしていたのだ。
手足の自由がなかったせいなのだろうか。しかし全て、一発の銃弾で死んでいた。
そうかあの人は躊躇いもなく人をこれだけ殺したのかと、事実を飲み込んだ。
そしてそこに転がってしまえば、ゴミクズと変わらない。
私たちはどれだけ「神」に祈りを捧げたというのだろうか。何日、何回の昼と夜で。そんなものは物心ついたころから当たり前に、最早空気のように存在していたはずだった、と。
近くで爆発音がして、建物がぐらつき壁も少し壊れる。
世界が壊れるのは、たったこれだけだったんだ。
俺はその事実にそうか、と、どこか遠いような、どうしようもないダルさにやる気も何もかも破壊されてしまったと感じた。
イツミから渡された小さな爆弾。
けれどそう、俺はもしかするとずっと。
普遍で、取り繕ったハリボテのここを綺麗だなんて思ったことなどなかったかもしれない。
いつでも誰かが悲鳴をあげている当たり前のこの、箱の中の世界を、どう思っていたのかと考えたら泣けもしなくなっていた。
ただ怯えていれば死ぬことがなかったこの場所。
俺はピンを抜き、その部屋に爆弾を投げつけた。
さようならと思う間すらなく、炎が上がり壁が崩れることに惜しくも何もない。
ただ、どこか当たり前に、何故だか幸せを感じることに、俺はずっと耐えていたんだと、薄れる意識の中で気付いた。
終わった、やっと、このどうしようもなく汚い世界が崩れたんだ。それだけを確かに強く感じて。
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