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最近中国と日本の関係も改善され、中国はいま日本で「爆買い」なんていうことをするんですよ。
どれほど前の情報かは知らないが、国を離れ、疎い朔太郎ですら知っていた単語。
それに関心を寄せるスウェーデンやイタリアやサウジアラビアやらと考えれば、アジアなどやはり小国にしか過ぎないと知る。
適度に離れようと考えていたタイミングで、ふらっとレイラが「あらこんにちは、お楽しみかしら?」だなんて現れるのにも完全にタイミングを逃し、メディアや官僚の部下達は黙り込み、自然と離れていくのもやりにくかった。
「…レイラさん」
「貴方、困っていたように見えまして。こーゆーところは慣れませんか?」
ミハイルに睨むような視線を送れば気まずそうだった。
「…出来るだけ直接的なやりとりは最小限押さえたいのですが」
しかしそう朔太郎が言っている側から「あら外交の」と、自分勝手に去ろうとするレイラに、まぁ確かに気ままで、それが普通の対応かと少し、思えたが。
「あっ」
レイラがふと入り口付近を眺めて表情を素に戻し、それから朔太郎に顎で合図をした。
一人。
赤いドレスの女が会場にしれっと入ってきた。
白っぽい金髪というところだけ見て取れた時に「どうかしました?」と、先程挨拶をしていた外交のおっさんがレイラを案じる。
「あぁ失礼いたしました」とまた愛想を振り撒きそちらへレイラが向かうさがら、ミハイルが「…多分兄です」と朔太郎に耳打ちをしてきた。
「…母親にそっくりだ…」
…なるほど。
露骨にわかりやすすぎるのはこちらもいけないなと、然り気無く朔太郎はミハイルから離れ、アレクとジョフをそれぞれ見合わせた。
一番レイラに近い位置にいるアレクもちらっと朔太郎と目を合わせ、然り気無くレイラと接触しようとしている。
ジョフはジョフで、FBIあたりの者達と話を盛り上げつつ、目線は送ってきている。
少し、ユーリイから離れてしまっていると朔太郎が側に戻る間、やはり気付いたのであろうユーリイが少し落ちつきなくあたりを見回していた。
クロエだと仮定した人物は、しかしあまりにも堂々と、何にも接触せずに真っ直ぐにユーリイの元へ歩いた。
…確かクロエは成長過程だろう19歳では、茶髪であったはずだが、まるで若返りだ。どうしてそうしたのかと真意が読めないまま接近すれば、ついにユーリイの真ん前までやってくる。
緊張が走る。
クロエが愛らしくユーリイに微笑み、「こんばんは」と言ったその目はハッキリと濃い碧眼と…目元に小さな黒子があることまで確認出来た。
「お久しぶりです、バザロフ氏」
「へっ、えっと…」
「覚えておいでではありませんか?去年お会いしたのですが…。と言っても科庁でしたね。
防衛科会計の代理で参りました。ロシア人のルカ・アラーモヴナ・クーニナでございます」
あっさりとそう、愛想よく紹介をした。
「あ…あぁあ、えっとすまないねぇ…おかしいな、こんな美人さん、忘れるなんて」
「あはは、お上手ですこと。ではまた覚えてくださいませ」
…特になにも怪しいこともなく「ルカ」と名乗るクロエはユーリイと握手をし、「よろしいですか?」とワイングラスをユーリイに向けた。
ぎこちないユーリイにクロエは首を傾げている。
それが本当に何者でもないような、自然なもので。ただ、目立つとすれば確かに一際美人だった。
ユーリイのまわりにいた官僚やらも、「どうも」だなんてへこへこし、また、クロエも対応がごく自然なのだ。まさかこれが件の者だなどと想像も出来ないだろう。
…どうやら。
間違いなく本人であろうがこいつは相当肝が座っていやがる。
あまりに唖然としてしまったせいか、左隣に移動していた朔太郎だったが、バッチリ、クロエと目が合った。
クロエがこちらにニコッとした際にユーリイも気付き「あぁ…」としどろもどろになっていた。
これは完全にバレてしまったな。
「し、シバタくん…!」
ましてや手招きまでされてしまった。
「…あ、貴女もお目が高いですねルカさん。彼は…私の部下の会計士で日本人なんですよ」
「あら、珍しいですね。初めてお会いしました」
「まぁ、こんな年寄りばかりでも申し訳ないし、」
「何をおっしゃっているんですか、」
彼女はふと、まるで親密にユーリイの肩に手を置き「素敵ですよ」と、耳元に息を掛けるように呟いた。
「では、また」
完全硬直したユーリイを置いて、クロエがワインを持ちこちらに歩いてくるのだから、これは最早相当大胆不敵だと、喧嘩を売られた気にすらなってきた。
まず目的は何か、もう少し探ってやろうと朔太郎は「どうも」と、受けてたつことにした。
「初めまして」
「初めまして。バザロフ氏の会計士を勤めます、サクタロウ・シバタと申します。ミス、ルカ」
クロエは愛想笑いで「どうも」と、乾杯を求めた。
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