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後日、ついに電気が止まった日の早朝、朔太郎はアレックスと共に防衛科の大臣候補、ユーリイの元へ向かった。
朔太郎はコンビニの駐車場で待ちながら、ユーリイの写真とクロエの写真を眺めている。
電気代の支払いを終え、ついでに袋をぶら下げたアレックスは朔太郎に早速「はいよ」と、セブンスターのソフトパックとコーヒーを買い与えた。
「コンビニって便利だな〜。日本文化は凄いな、サク」
「んー…あ、サンキュー」
アレックスは車のエンジンを掛けながら「こんなに便利なら自分で行って欲しい」とぼやいて車を発進させた。
渡された袋からセブンスターを取り出した朔太郎は、早速口を炙り一本咥え、火をつける。二日ぶりの11ミリは少し眩暈がするようだった。
「ちなみにネクタイくらいはちゃんとして欲しいなぁ」
それに朔太郎は、「んー」と、唸りながら写真やら何やらを眺めつつ寝癖は整えるように触るのを、器用だなと感心しながらアレックスは「なんか見っけた?」と聞いてやった。
「ん…。あのさ、クロエは母親似か?」
「まぁ父親に似てないからそうじゃん?てか、似てそうじゃん」
「まぁねぇ……。
いや、アルビノだとしたら…パターンは未知数だがこれくらいの歳になっても素の金髪なんじゃねぇかなぁとか…。まぁ未知数だけどさ」
「アルビノ?」
「…かと思ったんだが。ちょっと童顔だからそう見えるのかなぁ…。色白で薄いブルーの光彩、となると日本人でもそうだろうし…」
「…仮にアルビノだとしても、まだ19…あぁ、確かにいー歳だな、茶髪だったっけ」
「そうなんだよ。
違う線から行くと何故ユーリイは愛人だったレイラの子供を「長男」としているのかが疑問でな。書類を見るとミハイルとクロエは同い年だし。本妻の子を長男としなかったのは、もしやそのせいかとも勘ぐった」
「なーるほどねぇ」
「だが確かにもしアルビノなら軍隊訓練は直射日光当たりまくるだろうからなかなか勤まらないよな。やはり考えすぎというか見た目に頼りすぎた見解かなぁ…」
「何せ写真くらいしかないしなぁ」
ぼんやりそう言うアレックスに朔太郎はふと、「そういえば護衛って言ったよな」と思い出した。
「試しに特犯1の見解を聞かせてくれないか」
「まずはカフカがクロエを探している理由は全壊事故の件だって言ったっしょ?
結局行方不明者捜索としているが、責任は取りきれないままにカフカは司令官から総括に出世した。それは単純に対応が良いのと、最早カフカでは|余らせた《・・・・》事案だったんだろうと思う。
何より曖昧だが、まぁ正直その状況下でのクロエとユーリイの関係性が引っ掛かってな」
「確かに、有耶無耶にするには絶好だな」
「そして俺たちが追う事案に絡んだ。パッと見臭いと思うのは刑事だから仕方ねぇよな?この時期にクロエを探すというカフカも、なんだかね」
「…まあバザロフを丸々消すのも確かに可能だな。クロエはテロ組織に加入していそうか?」
「…情報が極端に少ない点では、あり得なくない」
なるほど。
結構勿体ぶって言うからには、特犯1では思ったよりも信憑性に近付いているのかもしれない。
「…じゃぁ俺は取り敢えず捜索をしつつ、護衛をしつつ、クロエを捕らえるのも視野に入れたらいいか?」
「一応その方針で。
明日の昇進会には俺ともう一人、新人君で潜ろうと思ってる。
直近護衛をサクちゃんに頼みたいなぁ」
「畏まりやした〜」
決まったところでぼんやりと外を眺めながらネクタイを仕方なく結ぶ。
景色は元ディスコやカジノ、風俗と…所謂“歓楽街”だった。
夜は華やかにライトが光るこの通りも、昼間には景色が違う。先日擦ったあの濃厚さがいまはないが、自分が生まれた国よりは活気もあるように思える。日本では、歓楽街など、昼にはめっきり寂れたような物騒さがあったのに。
「昼間は風俗って、何やってんだ?」
「…は?何、どうしたのサク。行きたいの?終わってからでい?」
「いやいや違う違う。いやまぁ日本でも風俗だったらやってるにはやってるが、日本じゃぁ夜の仕事ってやつがあってな。キャバクラなんかは昼、やってないんだよ」
「そうなんだ。まぁ…普通に飲み屋じゃないかな?クラブの役割もあるだろうし」
「なるほどねぇ、効率的だ。これなら昼夜変わらない認識だろうし、犯罪も却って減りそうだな」
「いやいや、だから無法地帯ってのも作るんでしょ」
「そうか、そうとも言うな」
「どしたの急に」
「久しぶりに外出たから」
「…俺知ってるよ、日本ではそれを引きこもりって言うんでしょ?この前しょっぴいたサイバー詐欺の容疑者全員がそんなんだった」
変な日本語を知っているもんだ。日本を離れて暫くしてしまうと、却って朔太郎も知らない言語だ。
「アメリカでは“ネオン街”と呼ばれていたよ。眠らない街、なんつってね。でもまぁ観光客ばかりだったかな。明かりが綺麗なんだよ」
「あ一回行ったことあるわ、まだ日本にいる頃」
「そーなんだぁ。それってどのくらい?」
「間違いなく10年以上前」
だろうねぇ、と穏やかにアレックスは笑った。
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