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 写真の少年は19歳、どうやら年譜では6年前に陸軍へ入隊した、のみしか情報がなかった。

「虫も殺せなそう…」
「俺もそう思う」
「言われなければ陸軍とか…なにより少年だとかいう意識すら滑りそうだな」
「な」
「確かに可愛い…」
「テンション上がった?」
「内容によりそう」
「ん。所属の基地を見てくれ」
「…アニシン第2基地」
「そ」

 アレックスが腕を組みわざとらしく溜め息を吐いた。

「一年ほど前に全壊したんだよ第2は」
「…アニシン……。
 記憶が正しければ去年、総括になった奴か」
「そ。そして今回の依頼主様」

 仕方がないと朔太郎は立ち、本棚の「事故」あたりを眺めようとするが、「打ち切りじゃねぇしそもそも公になってない」とアレックスは笑う。

「…全壊っていうのはなんだ?」

 ついでだしと、朔太郎は役員名簿を漁り、ファイルを開いた。

「爆発事故で、上がってきてるのは食堂のガス漏れということになっているようだが」
「…なるほど、防衛大臣候補、ユーリイ・ロマーノヴィッチ・バザロフ53歳レイラ・バーベリ・バザロヴァ47歳とには息子が一人…ミハイル…25歳、ユーリイの秘書か」
「聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。処理してるから続けろ」
「…流石変態だよ」
「いーから」
「ハイハイ。
 その事故で19名の死傷者が出ている。
 そのうち6名は確かに現場監視官が確認済みだが13名は実質行方不明として処理された」
「その中にこいつが紛れてるわけか。生きてりゃ探せるが死んでりゃ無理だぞ」
「まぁ早るな早るな。
 その13名のうち7名は更に、テロ組織へ加入していることがわかった。クロエはその7名にも溢れていて、責任者のカフカはこいつを探したいわけだ」
「まぁ最大のスキャンダルだからなぁ。
 カフカ・オレーゴヴィッチ・アニシン53歳、妻はアメリカ国籍ニーナ・アニシン35歳、へえ、奥さん若いな、子供はなし…と」
「で、ユーリイの昇進祝いが近々自宅で開かれるそうだ」
「…ん?」

 朔太郎が資料から目を上げるとアレックスは「上手い飯食いたくないか?」とにやっと笑った。

「…ユーリイの大臣就任はほぼ確定になった、と言うことで。まだ椅子は開かないが年内に老いぼれが引退する」
「…カフカとユーリイの繋がりはユーリイが防衛大臣になりカフカがその配下ということしか…壮大な話になるか?」
「さぁね。だからお前に頼んでる」
「…だとしたら、持ってきた以上カフカとユーリイの因果まで知りたいが、不確定だからここに来たんだよな」
「うん、話が早くて助かるね」
「そもそも引っ掛かっているんだがこの…クロエとユーリイは別姓だな。ユーリイは離婚しているのか?ここにはないが」
「離婚はしてないらしいよ。
 ユーリイの本妻の旧姓がアヴェリナなんだよ。ルカ・キーロヴナ・アヴェリナ45歳」
「…なるほどね。クロエは母方の姓を名乗っているわけか」

 つまりこの…クロエの異母兄にあたるミハイルの母は本妻ではない。
 では本妻はどうしたというのだろう。

「…プライベートまで絡んできそうだな」
「そうくると思って明日アポとっといたよ」

 …流石は出世部署にいるだけある。仕事が早い。

「護衛なんていかが?」
「護衛?」
「そ。お父様に何かあったら大変だし、良い口実かと。本当のところは面倒そうだからこの件に関しては防衛科とパイプを繋ぎたい」
「うーん、まぁわかった。取り敢えずそっちで話を持っていこう。明日までにこの電気代の領収書を経理に掛け合ってくれ」
「了解しましたぁ」

 朔太郎がまた物欲しそうにアレックスを見れば、気前よくタバコを一本与えてくれ、「タバコも奢ってやるよ」と言った。

「日本のタバコだったよね」
「うん、セブンスター」
「七つ星、かっこいいねぇ。けど高いからこっちのタバコにしない?」

 アレックスが寄越すタバコがラッキーストライクなのだから「嫌だ」と朔太郎は断る。

「ラッキーストライクは原爆記念だって日本じゃ言われてるから」
「そーなの?あらごめんね」
「濃いし好きじゃない」
「我が儘言うなよ全く」
「ははっ、冗談だよ」

 しかし朔太郎が本日初で笑ったことに、アレックスは好感触を得た。
 この男が乗るということはやはり影が深いのだと確信する。この男、柴田しばた朔太郎さくたろうは、クールな顔立ち通り、良くも悪くもクールな仕事をする男だった。
 隅に追いやられるほどに恐ろしい潜在能力、そこには勘も含まれた物を持っているとアレックスは知っている。

「サクはもー、ここには慣れたかい?」
「まぁ、確かに死にそうだけどこれはこれで優越感がある」
「…そうか」

 少し諦めのある表情を浮かべたアレックスにやはりそういうもんかと思うことも、案外朔太郎には慣れてきている。
 5年という月日はそんなところだった。

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