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 港町で降りれば明らかに漁港とは違う雰囲気で、良くも悪くも軍人ばかりが目立って取り仕切っていた。

 この状態で見慣れない車種と言うのも目立つのに、先にクロエが降り立ったことに最早シートベルトをぶち切りたくなるほど気が急く。
 案の定、朔太郎が降りる前には「Hey.」と、早速クロエは軍人に絡まれていた。

「おいお前」
「へーい、ナイスガーイ」
「なんだお前は一体」
「観光客デス」
「嘘こけ嘘こけ、」

 バカなんじゃないかこいつは。

 思わず突っ込まずにいられなかったが、朔太郎が車を降りれば当たり前に白人の迷彩服は不審な顔をし更に「なんだお前は」と続けるしかない。

「…軍人か有り難い。国勢調査でこの町の水産業について調べている」
「…は?」
「郷土資料の参考にしたい。農務|省《・》補佐のシバタと申します。
 こちらはマスコットキャラクターのマリンちゃんです。ハロウィーンに間に合わせたいんだが」

 明らかにクロエの肩が一瞬震えた。自分でもよく咄嗟に出たと褒めてやりたいと朔太郎は歯を噛んだ。残念ながら飴がない。

「…ははぁ」
「通達はしたはずなんだが手違いかな?軍部通達も込みだったんだが」
「…そうなのか?」
「はい。
 ここは確か本国への報告だとラプラタトウゴロウ、えっと…ペヘレイで通じるか、その辺が盛んだと聞いた。何分本国では馴染みが薄い。これを機に見てみたいと」
「…スペイン人には見えないが?」

 流石に取り繕っては難しいかと「あぁ、日本だよ、和名がラプラタトウゴロウなんだ」と、これもまたよく出たものだ、自分は資料以外で名を見たことがなかった、なんせ関西人だと苦笑いするしかない。

 しかし不意を食らったのはどうやら軍人も同じだったらしい、「へぇ、そうか…」と戸惑い、怪しみながらも下手に否定はしないようだ、こんなときに希少人種は役に立つと変に染々した。

 なにより現場に立つ軍人が末端だという朔太郎の読みも最適だったようだ、無難に「魚ならあっちだ」と、如何にも古い漁船が停まる港を指差した。

「ちなみに君は食べたことは?」
「…は?」
「見たところ君はヨーロッパかな?アメリカかな?やはり馴染みがないものか」
「まぁ…」
「そうかそうか」

 特産品がそんなマイナーなものであれだけの利益だなんて、本当によくあるパターンだ。すでに侵食は進んでいる。
 これを取ったらここが戻れるかというのが計算済みなのもカルテルやらの連中の質が悪いところだが、彼らはどうせショバ代も吹っ掛けているだろう。

 これは確かに、難航しそうだ。
 いっそ確かに国の行政機関を挟もうかと迷うところで。このカルテルがなくなっても次が来るのは目に見える。

 …あながち咄嗟の「PR」も悪くないが、この国は高低差を作る。だがここの仕事は結局自分ではないのだ。ただただ、タイミングによる。

 パッと目を見合わせたらクロエは愛想笑いをした。わかったか否か、しかし面倒そうに盛んな方の港へ歩くその軍人の元へ駆け寄り「あのー」と声を掛けていた。

 ならば自然と自分は漁船へ向かうことが出来る。

 ちらちらとクロエの同行を眺めながら朔太郎はあまりいない漁師のうちの一人に「こんにちは」とコンタクトを取ったが、露骨に目は反らされる。
 確かにこちらの案件ではないが必要な雑用だと「農務省から来ました」と告げると漁師は意外そうに対応するしかないようだった。

 クロエはどうやら船に近付くまでの、ダラダラ伸ばされているのであろう対応を愛想笑いでこなしていた。
 案外、気は長い質らしい、軍人が微妙な火照りで腰に手を当てていようと、まるで女子のような仕草で対応をしている。

「…農務科…?」
「はい。日本人のシバタと申します」
「ほぅ、日本人かい」

 漁師は食いつく。確かに数少ない、ラプラタトウゴロウを食べる人種だ。

「この街の郷土資作成やPRの為、まずは水産量などを厳正に調べに来たのですが、盛んなようですね」

 意外と初口で切り込みすぎたか、漁師は「あぁ、」と途端に口籠る。

「ここではヘペレイが」
「Annoying!(しつこいなっ!)」

 軍人の声が聞こえ自然と顔を向ければ漁師はまた「あぁ、」と違う色を見せた。

「…ウチはヘペレイより軍支給のもんで栄えていますよお役所さん。あっちは俺らもタッチしてない」
「…そうですか」
「機密なもんはそりゃあるだろ」

 それは大層怠惰だ、確かに貧困の恐れはなくこの漁師もダルく仕事はこなせる。
 カルテルに付け込まれるわけだ、どうやら容認らしいなと、朔太郎は揉め始めた二人の方へ、思いの外早く向かうことになった。

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