6


 観光大使に話はつかないが、役人ならば話が付く。
 ふと朔太郎が場に立てば軍人も荒げた声を引っ込めるが、この人種は「あっちはな、」と横暴なのは変わりがない。

「勘弁してくれ。農務省にだって関係がない、軍の管轄なんだ」
「それは食料支給でしょうか?」

 しかし朔太郎も気は長くない。直球で行けば都合が悪い末端が黙り混むのを知っている。

「…我々の仕事を言うのであれば本国は近年水産が減少している。それらに対してのマーケティング、輸入や輸出に対しての把握が必要なんですよ。ユートピアとて国民が住んでいるのなら本国の管轄内で」
「…そもそもあんたの本国ったぁどこなんだ」

 しまったー。
 だから避けていたのにー。

 心の声だった。下手気に嘘を吐くのは地雷だ。だがこれは結局不信感を与えてしまうと、「美国です」と、如何にもアメリカ人が言いそうな、しかし決定打ではまったくない単語をほざいてみた。場合によってはフランスかも曖昧だ、こんな時に日本人の曖昧さが役に立ったと身に染みる。

 しかし軍人は「はぁ?」と言った。

「…勿論ユートピア政府とも話は済んでいるので困ったな、君ではダメかもしれない」
「…そりゃぁ嘘だろあんた。政府って」

 あ、地雷掘った。

「…何故嘘なんですか?」
「は?」
「まるでその言い種では政府は関係ない、とでもいう印象を受けますね」

 白人の軍人は黙った。
 それを良いことに朔太郎は踏み込むことにする。

「そりゃぁユートピアは移民を集めた解放区だ。しかし解放区、意味わかりますか、どの国の移民がどれ程に母国の国民性を喚いたところでいまはそれらも解放されひとつの纏まった国ですよ、それぞれの国の担当に確かに機密事項があったとしても、我々からすればここは異国だ。だが国民が住んでいるからには調査機関が調査をするのは当たり前ですよね?」

 更に黙り混むので「話にならない」とまずはこいつを追い払う態度を取ってみる。

「貴方より上官の方がこの手の話は有意義そうだ」
「…は、」

 しかし嘲笑われる。

「…お前、世間知らずか。ここをどこだと思ってる」
「…は?」
「政府?本国?お前わかってていってるのか?軍事は防衛省だろうがイエローモンキー。それが本国に通っていないならこの国の国家機密なんだよ、」
「この国の防衛科か。ありがとうよくわかったよファッキンホンキー」
「は?」
「バカは喋るべきじゃないな。問い合せ先がよくわかったよ。悪かったな、警察だ」
「…は?」
「いいんだな問い合わせて。軍人にしちゃぁ易々と首輪の名前を大声でペラペラ喋りやがる。はい、クロエ、行ってよし」

 あぃーっすとやる気なく返事をするクロエが易々と軍人の横を通るのに「なっ、」とムキになるが、朔太郎は「へっへっへ」と懐から拳銃を出し、軍人へ「退け」の意思で銃身を軽く横へあしらう。

 事を理解した軍人を涼しく見ながらタバコを咥え、「バカじゃねぇのか」と嘲笑った。

「てめぇの落とし前は防衛科じゃねぇよバーカ。エウロパか…いや、防衛科をあっさり売るならあの白人への忠誠心に欠けてるよなぁ、ノースマリンドライブか?そりゃぁ「美国ステイツ」機関が出ればビビるよなぁ。お前FSBがここ張ってんのなんか知ってる?」
「…は、」
「うーんそうだろうなそうだろうな、お前なんて切られてもその程度だよ、ガイアナだな。ご苦労様、よくお勤めを果たしました。労ってけしかけてやるよ、」

 誘導尋問を終えすれ違うように軍人の肩に手を置いた朔太郎はタバコを靴で揉み消し「あいつの面知らねぇんだな?」と念を押した。

「良いこと教えてやると防衛科なんてまだ引っ張れねぇよ。どうだ?知らねぇんだよな?」

 何も言わない軍人の肩を二回叩き、朔太郎は新しい漁船の積み荷を頂こうと銃を向けているクロエの元へ赴こうとしたが、背後で「Idi Nakhuy!!」、知らない単語とわずかに拳銃のカシャッと言う音がした。

 振り向いた瞬間に「サクちゃん、ズレて」とズレる前に「Sobaka!」と何か言い捨てたクロエの声と、ついでにぴしゅっと音がした。

 視界の端に見えた菱形の弾。最早どちらを見れば良いかと軍人の方へ向けば真っ青な顔の軍人は腰を抜かす、その先が明らかに爆発した。

「は、」

 そしてクロエを見れば構えられたRPG-7。
 最早なんの魔法だよと思う間もなくクロエはその魔法ステッキを捨て、「伏せろサバーカ、」と再びそれを口にしながら軍人にスチェッキンを向け歩いてくる。
 目が冷たかった。

「…は?」

 いや普通撃たないでしょ対戦車ミサイル。援護射撃が過激すぎるわ。
 等と言うのも聞かなそうな雰囲気でクロエは着実に歩いてくるので「…バカだねぇ…」と、どちらにも言ったつもりだった。

「…だからチクんねぇっつったじゃんお前。死ぬぞあれぇ。
 おいバカ普通撃つか普通っ、」

 やはり聞いていない。
 軍人に銃口を向けたまま瞳孔も開きそうなのこいつの方がどうかしているかもしれない。だがお陰で不正にRPG-7が輸入されているのは確実に目にした。

「えっと、取り敢えずこの漁港での武器貿易は禁止なんで、お縄で」

 死ななくてよかったなという目で軍人を見つつ、クロエには銃口を下げろという指示で銃口に手をやりつつ、朔太郎はケータイを手にする。

「……あぁもしもしミシェル。第4漁港まで来てくれ。ガイアナあたりの1社を現行犯で潰しましたから。…え?うん後でね爆発したから大至急よろしく」

 用件は、簡潔に。朔太郎は電話を切った。

- 30 -

*前次#


ページ: