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どちらにせよ5名の名簿が増えたようだ。
これは恐らくクロエの事件よりも過去の物、つまりはそれぞれが入隊した頃の経歴等が新たに出て来たのだろうし、開示要請をしなければと、最終確認でぱち、ぱち、とファイルを照らし合わせて眺めていれば、クロエのデータもバッチリ見つかった。
が。
「…あれ、」
それは覗き込んでいたクロエも「なにこれ」と思わず漏らした。
クロエの写真自体は入隊時19歳の茶髪のものだが、記載された名前は「エタン・エミール・リシャール・サマン」でフランス人となっていた。
年齢も無茶に48歳、警察官学校出身と、あからさまなインチキだった。
「いや、エタンは確か…何かの教官だよ、なんだったかな…。
あ、ここ見てよ、妻子持ち、奥さんがアメリカ人って。違うよ確かアメリカ人の奥さんいたのは……そうだ、若い軍曹で、ほら、ほらね、奥さん21歳って。エタンは公言しまくるくらいにゲイだったよ。なにこれ、超シャッフルされてない?」
「シャッフル…」
そう聞いたので朔太郎は試しにフォルダ内の単語検索で「クロエ・ユーリエヴィッチ・アヴェリン」と入れてみた。
ドンピシャで出てきたクロエの名が記載された写真だが、短髪でクロエよりも難いが良い男。
「いやいやこいつどー見てもアメリカ人じゃん」
正直その辺の違いは未だに日本人である朔太郎にはピンと来るような来ないようななので「そうなのか」としか言えない。
「…おかしくない?これ」
「うんすげぇおかしい」
「なんで?なんで?」
「確かにこれじゃ不確定データとしてこちらに来ないのはよくわかったが、ついでに、このファイルより人数増えてるんだよな。
元々不記載な部分などもあるとわかってはいるが、ここに在籍していたと確定されてたデータはこっち。
ちなみにお前の実家立て籠り事件の時点のやつ。あのとき、これを見てお前を特定したからその時点でこのフォルダはなかった」
「シャッフル出来てると言うことは基地関係かなんかわからんけど、別に隊員のデータを持ってたやつがいるんだよね?で?なに?増えてるって」
「あの時点では死傷者として19名、内訳は6名が現場で死亡を確認済み、残り13名のうち7名が身元としてDOへの加入が確認されている、残り6名が行方不明、そこにお前も含まれてるわけだが、行方不明というのは要するに名簿にはあるが身元確認が出来なかったってわけで」
「隊員名簿は曖昧だったってこと?」
「そうだなざっくり言えば。お前の場合は加入と年齢くらいなもんしか記載がなくて…、多分アレクはこのファイルの名簿からお前を引っ張ったんだけど、」
「確かにそんなもんしか多分こうやって、経歴なんかも書いてないね、元から」
「だよな。行方不明が誰か、というのも名簿に名前があったからなんだが、増えていると言うのは5人新たに死傷者以外が追加されたわけで…」
テキトーに右クリックをしていけばクロエの次に黒人男性が出てきた。
「あ、こいつ違う」
クロエが気になったのならとそこでカーソル移動を止めてみれば「名前はヴィリバルト・ヘル」と続ける。
「ディル・イザードってなってるけど。ドイツ人だし…何、どれかと言えば行方不明…いや、新たに見つかったDO加入者だったりして」
「何故?」
「…多分なんというか公に見つかりそうだから、ヴィリバルトは。筋金入りのネクロフィリアなんだよ」
物凄く嫌そうな顔をしたクロエに「知り合いか」と聞いてみたが「なんなら全員知り合いだよ、」と、やはり嫌そうに返ってきた。
そうかそうかと試しに「ネクロフィリア」でぼんやりと検索を掛ければ「あ、」と、一件だけ共有サーバーから繋がった。
ごく最近で場所は、主に殺人事件を捜査する「捜査1部隊」のフォルダだった。
「引っ掛かった、」
捜査1部隊のフォルダに、確かにそれっぽい「連続猟奇殺人事件」とあったが鍵が掛かっていて閲覧は不可だった。
「現在捜査中だな」
単語に「ディル・イザード」を足して検索を掛け直せばやはり同じ捜査1部隊の連続猟奇殺人事件に行き着く。
「多分ビンゴだな。恐らくそのネクロフィリアは捜1にパクられているか、パクられてないとしてもディル・イザードとして割れてる。ということは秒読みだな」
「…うーん?」
「つまりこれは現在進行形。まだ終わってないからここに来ないんだ。しかし、こんなクソみたいなデータじゃ使えないな。
いつデータがこうなったか知らんがサイバーに復旧要請を出す許可を申請してみるが…。果たしてこんなんを弄ったのは誰だろうな。でも場合によっては棄却かな」
「…お偉いさんってこと?」
「そ。まず公安は持ってるわけがねぇんだよこの名簿は、こっちのファイルにある以外は。
しかし増えた、というにはいくらか仮説が立てられる。
この猟奇殺人の被害者のうちいくつかはネクロフィリアのお陰で新たに行方不明者の身元が割れたという可能性」
「あー、多分それだと思うよ」
「なんか知ってんなお前」
「事故の日の話してなかったっけ、してないかも。
うーん、けどそれならあの日にもう少し上がっててもよかったはずか。この事故かなりの死体がかなり転がったもんね」
「…なるほど」
「てことは、別で、無傷で生き残ったやつが殺されたのかもね。どする?これはこのままいったら闇で終了じゃないの?」
「話が早いな。電話もしようか」
朔太郎は片手でパソコンを弄りながら「もしもし」と電話を掛けた。
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