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「…ありすぎてわからないというか…」
「え?」
「あのー、俺あれなんですよ、」
「アニシン第二の生き残り」

 間が生まれ「アニシン第二?」と、クリスタルはポカンとした。
 クロエが朔太郎を見ると、「こんなもんなんだ機捜は」と説明した。

「事件か事故かって聞くのはいいが事案を持ち帰り、そっから後のことは部に振り分けるというのが正しいから、あんま知らないもんなんだよ」
「え?そうなの?」
「って訳でまずは鑑識かねクリスタル」
「そりゃそうなんだけど待って、どーゆーことよ?」
「はい、仕事は任せましたぁ。宜しくお願い」
「良い加減ぶっ飛ばすよシバタ。説明して」

 はぁ、と溜め息を吐いた朔太郎はまるまる「知らんけど」と投げる。

「まぁ考えられんのはDO関連だろうな。厄介だ、何故あいつらがクロエにこんなもん宛てんのか。気になるからには捜査本部立てんのが筋じゃねぇの?」
「…取り敢えず鑑識に持ってくけど、」
「資料は纏めとく。迅速に帰ってこいよ」
「あんたに言われる筋合いないけど。なんでそう偉そうなの?お前のイタズラだったら業務妨害やらなんやらで現行犯逮捕な、忘れてない?あたし上司だぞ、もう不服申し立てね」

 段ボールを持ち上げたクリスタルにクロエが「いや、俺が…」と、流石ロシアン紳士の精神だと朔太郎は眺めているが、「大丈夫、怖かったでしょう?」と、クリスタルは何事もなく一度事務所から出て行った。

「…えーっと」
「まぁ、そういうことだ」
「ごめん軍人だからあんま警察詳しくないんだけど取り敢えず多分機捜の方が馴染みはある…」
「お前の方が本来だったら上司も上司だな確かに。
 機捜はそういうわけで刑事よりか上だな。つまり」
「サクちゃん、実は出世組なの?」
「肩書きは」
「なのにこれなの?」
「そう」
「めっちゃやらかしてるでしょそれ」
「正確に言えば刑事をクビになった見せしめ」

 …組み立てれば…確かに資料開示なんたら、だとか、言われてみればそれっぽいが。

「なるほどだから特犯と捜査に来れたんだ…て、機捜って捜査権はあるの?それ」
「うーん要請されれば。俺は」
「要請されないんだ…」

 優秀なのかもしれないが予想以上の厄介者だということがわかった。
 アレクの話を考えると、元はあの「出世組」の上に立ったのがこれなら、確かに…。
 すっ飛ばした、これは告発か何か、そういう「売った」方面なのかもしれない。

「しかしなぁ……」

 資料を手繰り寄せながら考える朔太郎に「そう言えばさ」とクロエは思い出した。

「あの女のワインに指入ってたんじゃなかったっけ」
「…あの女?」
「浪費家ババアだよ家の」

 名前も呼びたくないらしい。

「あー、あったなそんなの。あれは身元不明だな、男で左手の小指としか。まぁ上がってきてないけど」
「そうだよね」
「トロフィーマニアは捜1にいるしなぁ。まぁ…」

 当たり前に浮かないクロエに飴を渡す。かなりレアなやつを最近見つけたのだ。

「…クロミツ?」
「そう。甘い」
「…うん、」
「典型的な精神への揺さぶりだ」
「…わかってるよ、」
「気に入らねぇけど。
 タイミング的にはヴィリバルトじゃねぇという証明かもしれないな。だが何故ここに届くか不自然は多く…まぁ単純だな、あの場にいたのは200くらいでいま絶賛捜査中だがやはり規模が足りない。わざわざありがとうございますとのしつけてやりたいくらいだ。しかし、頭を冷やせばこれは「焦らせている」んだよ」
「……なんか、わかんないけど」
「ん。今は良い。気にするな前を向け」

 そう言いつつ気付けば朔太郎は黒蜜とタバコを一緒に口へ放っている。無駄なことをしたなと気付きつつ、やはり先は考えてしまうものだ。

「…一個聞いてい?」
「ん?」
「サクちゃんっていつもそう言うこと考えてんの?」
「え?」
「いや…」

 何か悪いかと思ったが、クロエは心底引いた顔をしている。
 というかこいつそう言えば顔真っ青だったよなと自然、ドアを見つつ「コーヒー飲むか」なんて聞いている自分が、久しぶりな気さえする。

 「いや、ありがとうそうじゃないよ」とクロエが言うのは大して耳に入らずテキトーに用意をする。
 「それ口の中大変だね」というのにふと、「お前いつもそんなこと考えてんのか?」と、会話をしていることすら今更だった。

「正直考えてないけどサクちゃんは変だと思う」
「よく心の中で多分言われてる」
「自覚があるから余計変」
「まぁ、」

 と言いつつぼんやりしている朔太郎に「ふ…ははっ、」とクロエは笑った。

「…変な性癖持ってそーなやつぅ、」
「初めて言われたわ」
「多分みんな心の中で言ってるだろうよ。ねぇサクちゃん、やっぱ…」
「ヴィリバルトへの接触は正直許可したくない」
「…だよねぇ」
「踏ん切りだなんだ、そんなのは捜査に関係ないからな。なんか取れる宛があったとしてもどこへ流せるんだ」
「それ知りたいなら捜査本部を立てるのが筋じゃないの?」

 一丁前に…、
 確かに言い返せない。しかし、ここまで保守的なのも正直イライラしているという気持ちはある。

「…殺人の線で行けば捜1なのかな、テロとか特別犯罪が特犯だとして、」
「……何が言いたい」
「流すのはどちらか決めてよ、仕事でしょ」

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