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皮肉に朔太郎が笑った。
「じゃぁ事情聴取だクロエ・アヴェリン。どう繋がってる、なんの目論見だてめぇ」
「…遠目からしか見せて頂いてないですが、先程の指の感じは男性っぽい骨っぽさがありましたね。レイラ・バーベリ・バザロヴァのワインに入っていた指は何指でした?」
淡々と訊ねるクロエはふと、左手の小指と人差し指を立て、他は畳んで翳す。
狐に似ている。
わりと冷めた目で朔太郎を見た。
「イタリア人にはピンと来るらしいんだけど」
「宗教的な物か?」
「そう。コルナと言って…ヘヴィメタルなんかじゃちょっと高尚?悪魔払いの意味もあるけど…サタン崇拝というのもあるらしいよ。カフカが言ってた、サッカー観戦のときに」
「悪魔払い…」
朔太郎はそれに狐で返した。
「日本じゃこれが狐。わりと多分縁起はいいな」
「あそう」
「仕方ないな」
朔太郎はその場にあったマジックで印刷用紙に「Come interrogation room.(取調室に来い)」と殴り書きをし、「行くぞ」とドアにそれを貼り付けた。
「ちなみにさっきのは人差し指だった」
「やっぱりね。
ちなみにコルナはドイツやらオランダやらでは通貨のクローネとスペルが一緒」
「曖昧すぎないか。そんなダイイングメッセージみたいな」
「でも、メッセージでしょ、こんなの」
「……大方金で殺し屋が何人かいる、これは理解したが」
「俺はしくじったからねぇ」
「…いや、スッキリしない。何を聞く気だ…」
そこでふと思い出した。
「…DOのリーダーとされるレフィ・デ・ブラーンは…」
「そ。スリナム系オランダ人。あの辺はまぁまぁギリシャのあたりの流れは汲むのかな、地中海諸国ではハンドサインのコルナは侮辱に当たるんだけどもそうだなぁ、」
「言いたいことがわかっては来た。なにかはあちらサイドが警告は出している、ヴィリバルトがパクられたタイミングで」
「…あの指、鑑識を待たないと分かりにくいかな。黒人のものではなかったよね」
ヴィリバルトはドイツの白人だ。
「その辺は正直サクちゃんにはピンと来なくて当然かもね。俺ずっと気になってるんだよ、ヴィリバルトの殺人が」
「ここで本当に繋がれば確かにお前の件も貿易の件もDOと関連あり、と。だがお前らはそんなの」
「そう、わかってない。だけどあんたは何かしら裏付けがあればいいんでしょ。いいんだよあいつがわかってるかどうかだけでも」
「………」
そんな曖昧さで行くにはかなりリスキーだが、自分もそれくらいのことはしてきているので反論もやめた。
確かに心底のどこかで、面白いのだ。
「…ま、なんも思い出せなかったらあいつの終身刑を待つのみで…」
それは悪魔払い、なのだろうか。
「俺が言うのもどうかと思うが、お前何故この件に積極的なんだ」
「……は?」
「わからなくもないが」
「……本当によくわからない理屈で来たね。意外と人情派だよねサクちゃんって」
ふと笑う。
「まぁ確かに、正直クソ関わりたくないけど、俺はあの場でもピストル自殺しようとしたし」
どの場だ。
多分立て籠りの話じゃないな。
「…まぁ、今しか出来ないこと、で勘弁して頂戴な。知ってるでしょ、執念深いんだ、俺」
「…まぁなぁ」
「暗闇ってのは、目が冴えるんだよ、犬はね」
そういえば自分も。
気が狂うほどの執念を燃やす時は、いつだって夜の、駆けずり回った日を思い出すものだ。
整理整頓をする時間は誰だって欲しいだろう。自分はどうやら、意外と人情派…らしい。
取り調べ室の光景は昨日と全くかわらない。カツマタが最早殴りかからん勢いで机に手をついていてヴィリバルトが半笑いなのだ。
それを見たクロエがふと手を握ったのも見えた。
仕方のないと勝手にドアを開けクロエを促しドアを押さえるように腕を組んで立つ朔太郎と、当たり前にクロエに振り向くカツマタ、そしてポケっとしているヴィリバルト。
狐に似たハンドサインを見せたクロエは「ヴィル、久しぶり」と抑揚もなく言った。
「…はぁ!?」
「悪いなカツマタ。3分くれ」
「なっ、」
「…クロエ…!」
漸く焦点が合ったヴィリバルトは狂ったように「クロエ、クロエ…!」と立ち上がるものだから、更にイライラと「なんなんだよっ、」とカツマタはクロエを睨むのだが。
「ごめんね、退いて」
舌打ちをしてまだ何か言おうとするカツマタを無視し、クロエは立てた人差し指を指し、「届いたけど」と、やはり抑揚もなくヴィリバルトに言う。
なんだ?と訳がわからないカツマタのことは朔太郎が呼び、空いたその席へクロエが取って変わった。
「………」
信じられないと言いたそうにアホ面をこいているヴィリバルトへ、クロエはニコッと笑った。
「生きてたんだねヴィル」
思い出したのか、突如顔を歪めたヴィリバルトの「クロエっ、」は少し力が籠る。
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