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「まぁ、なくはない…」

 ユーリイは視線を落として手を組んだ。

 随分挑発的ではあったがそういう方面で話を進めて正解なようだ。

 どうやらクロエという人物は生命の安否を心配されていない。言い換えれば、息子を生け捕りにされていると言っても過言ではないのに。

「…我々も写真一枚でしか情報がありませんので、なんでも良い、息子さんに関してお話頂ければ…まぁ、捜索係にでも回しておきます」
「はい?」
「俺は特殊犯罪部隊でも捜索部隊でもありませんので。SPとして来たのは事実です。
 あのねぇ、の仕事は未解決やら、打ち切りになる前に事件に首を突っ込むことなんですよ、」

 朔太郎は、さきほどからモヤモヤしていそうなミハイルを眺めた。

「このままでは流れそうな事案でもある、という事で」
「…しかし、アニシン氏が、まさかそのテロ組織を動かしているなんてことは…」
「確信はないというのは俺がいるんだから、そうなんですよ。まぁ誰が聞いてもそう思うでしょうが。だから俺は特犯と共に来ただけで。どうしますか?金は出さなくてもここで引き下がることは出来ますよ」
「サク、」

 わかってるよ。
 アレックスの睨みには横目で返した。

「…わかった。
 確かに、クロエは私と…本妻の息子だ。ミハイルは現本妻との息子になる」

 観念したようにユーリイは話し始めた。

「…しかしざっと資料を読ませていただきましたが、ミハイルさんとクロエさんは同い年ですね」
「…それも私からお話ししましょう。同時期に出来た子供で」
「ミハイル、その話はいらないだろう」
「クロエとクロエの母は私の母、レイラが離に追いやりました」
「ミハイル!」
「なるほど恨まれる要素だな確かに。ミハイル、君に聞きたい。君はクロエを「兄」だと言ったな。つまり本妻の子供が長男ともなれば君の方がお払い箱だが、いまの現状を許容された要因を聞きたい。俺の予想は不確定だがクロエはアルビノじゃないかと踏んだんだが」
「……正直私も小さかったのでその点はわかりませんが、見てわかるでしょ、確かに美麗な子供ではありました」
「差別精神も君にはなさそうだな。確かに綺麗だ」
「…何の話をしてるの?サク」

 呆れたようにアレックスが突っ込んだが「でも、クロエの母は病弱でしたよ」とミハイルは続けた。
 
「だから追いやったんです、母が」
「…君はどうやら優しい青年だな」
「いえ、私も何も出来ていないですから。
 それ故兄と兄の母は殆ど外にも出られなかったようなので」
「…不確定要素が増えたが、なるほどね」
「しかしどうしてそんなことを?」
「どうやって行方をくらませたかとも考えた。彼は茶髪で光彩も薄い青だ。しかし色素欠乏なら茶髪にもならないし…軍隊だなんて」
「ですね。
 その軍隊へ入隊と言う件ですが、クロエの母が病死した後にクロエを引き取った人がいます」
「やめろミハイル」
「…なるほど」

 思わずアレックスが横で「うわっ…」と漏らした。

 なるほど。不明確は広がったがお陰で霧は薄くなった。

「ふははっ、君は優しい青年だミハイル」

 しかし朔太郎は笑い、「だが弱いな」と吐き捨てた。

「事は思ったより重大そうだ。少々作戦を練り直した方がいい。いいかい、言っておこうかミハイルくんにユーリイさん。事は思った・・・・・以上に重大だ・・・・・・。あんたらは要請に応じる必要性がある、ここでハッキリした」
「は?どしたのサク」
「話は簡単だ。あんたらには雁首下げて囮になってもらうと言う話だ。アレク、忘れたか?ここはロシアでもアメリカでも日本でもないんだよ。たかが解放区ユートピアだ」
「…それが?」
「高々一介の政治家を吹っ飛ばすほどの弱い話。穏便に済ませるにはそれがいいけど、だからこそ犬一匹に逃げられていることに納得はいっていない」

 どうやら朔太郎は何かを一人で納得し組み立てたようだが、彼の頭の仕組みは昔からなかなか理解し得ない。
 案の定ユーリイは「何だ貴様、高々警察の癖に」と吠えた。

「…私にも何がなんだか」
「世界は広いが一貫しているのは大抵、警察は事が起きなければ動けないのが定説だミハイル。誰が雇った?一応俺もアレックスも『カフカ・オレーゴヴィッチ・アニシン』が雇って人探しをしているんだぞ。
 あんたにはもう少し何かがありそうだが、事は起きているか捨て駒の俺たちには知る由もない。
 アニシン氏は政治家だが、元は軍人落ちだというのも思い出してくれ。単純な連想ゲームだ。だが…捨て駒には関係もなく意味がわからない話、と、政治家に話すのはこの程度がいいだろう。取り越し苦労であることをやはり願いたいね。俺は俺の出来る仕事で。役割は振ったからもういいだろう。帰ろうかアレク」
「は?」
「まぁ追々。では明日、昇進会前にお会いしましょう。大丈夫です、俺もアレクも仕事をしに来ますから」

 そう言って朔太郎は勝手に席を立ち、「失礼します」と部屋を去ろうというのだから、アレックスも納得はいかないままに「失礼します、また明日」と続くしかない。

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