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少しすっきりした。
朔太郎は部屋を出てすぐにポケットから飴を取り出し口の中に放り込んだ。味はレモン。
「ちょっとサク、全く話がみえないけど、」
アレックスが朔太郎を追いかけるのに、「お待ち下さい」とミハイルも部屋を出てくる。
振り向いた朔太郎はつかつかミハイルの前まで行き「なんだ」と、飴をガリっと、イライラしたように噛み砕いた。
「…どこまで暴かれるのかはわかりませんが」
「知ってることは全部吐けと俺は言ったな。明日の参加者名簿が見たい」
「…兄は本当にテロに荷担しているのでしょうか」
「さあな。ただ一つ残酷なことを言えば武器に心なんてねぇぞ。まぁ、武器を使う側なら頭を使うだろうけど。だから別に道徳を学ぶ必要もない」
「…貴方の読みは?」
「必要あるか?確信は何一つないから早く役員名簿を持って…まぁいいや、来客にこんなのは来そうか?FBIやらCIAあたりが」
「…えっと」
「まぁ正直防衛管轄なら不自然でもないが、不自然でもないのが穴なんだよ。
君がそれほど聞くには何か理由つきだろ?俺の本心から言えば、ヤケにお父様が保守的なのも気になるが、俺が想像しているものならそれにしちゃ君のお父様は頭が悪い。そんな安い話じゃないと…しかし憶測だな」
平坦な口調、しかし内容的には捲し立てているような朔太郎の言葉に戸惑ったのか、ミハイルは黙り込む。
そんな様子に「苛めんなよサク」と、アレックスが朔太郎の肩を叩いた。
「…こんなやつですが、彼はプロファイリングに於いてネジが飛んでいます。部署も追いやられるほどに。それだけ嗅覚はあるんですよミハイル氏。本当にここが飛ぶかもしれませんが我々はあくまで警察なので」
「…その手には乗らない、乗れない…。諜報員なら名前など記号だとは私でもわかります。しかし、父とアニシン氏は同期でした。だから父は易々兄を預けた。
いま取り敢えず、用意します」
そう言ってさっさと奥へ歩いていくミハイルの背を見て「種明かしを」とアレックスは朔太郎に訪ねた。
「表と裏があるというのは紙なら当たり前の話だろ?アレックス、連想ゲームと言ったろ。政治家と革命家で繋がるものを探していけばどうだい?」
「…勿体ぶんな明日だぞ」
「気が短いな、単純に行こう。「ヤクザ」「マフィア」あたりは出てこないか?」
「…は?」
「事は重大だと言ったのはそこだ。政治家がひた隠しにする事案は大体表に出てこない。そこに息子がいる。変な話だ」
「…潰そうというより結託してると?」
「しかし言った通り政治家の頭は緩んでるようだ。彼はそこまでの考えはついていないかもしれない、そうなればもしかすると犯罪に荷担してしまっている事実を知らない、だから動かしやすい。
それは息子にも言える。彼はただ、幼少期のことで「復讐」という陳腐な道徳のために雇われているかもしれないな。確実なのはユーリイ側の人間は誰が消えても「なかったことに出来る」というわけだ。そっちの方がテロっぽいだろ」
「その推理が外れの可能性は?」
「五分五分かな。外れだった場合はよりカフカの目論みはわからない。正直、クロエを探す意味が最初からわからなくて考えた結果だ。全てが憶測でしかない」
「…わかった、FBIとCIAは?」
「便利な単語」
「…嘘吐けお前、」
「そうだな。だから道徳はいらないと言ったんだ」
「……待って、壮大すぎてパンクしそうだ。全く掴めない」
「それだけで掴めてると思うよ。
本当に明日クロエが現れたら、殺すより引っ捕らえた方がいい、ちゃんと逃げ道を塞いでな。
生け捕りにするのは俺たちの方だ。どうだ?電気代が陳腐に思えてきたぞ」
「…お金好きだねぇお前は」
「保険も兼ねてるからな、ちゃんと」
ミハイルが走って書類を取ってきた。
ついでに「これも」と、一つ写真も添えて。
金というよりは、光の加減か白髪に近い少年は、はっきりとした碧眼だった。
「…兄の幼少期の写真です。
シバタさん、兄を…」
朔太郎はにやっと笑い「当たり前だろ」と告げ、ポケットから拳を作り「ん、」と、ミハイルに手を出すように促した。
「…どうやら君の父親はそれこそ、ネジなんかを使うステレオタイプな政治家だな。錆び臭くてならないよ」
渡したものは、ブドウ味の飴だった。
「…俺の中では外れだそれ。武運を祈る。
じゃ、明日」
言葉のわりには優しく笑ったように、ミハイルには見えた気がした。
書類を眺めながら手を振りもしない朔太郎の後ろでアレックスが頭を下げる。
「も〜サク!」
「はいはい話は車でまとめよう。俺もな、日本人だしテロなんてピンと来ないんだ」
心配そうなアレックスに対し少しは態度も変えなければと、「まぁどのみち胸糞良い話ではないな」と、諭すように朔太郎は続ける。
「正気の沙汰じゃない」
「…それくらいの道徳は持って良いわけだね」
「そーだね」
「そしてお前からその言葉が聞けたのにも……安心ではある」
「俺を何だと思ってるんだ」
「FBIか何か」
「便利な言葉だねぇ。俺がやったのはテロじゃないから」
「いや、テロを繰り返してるようなもんだろうよ全く…」
「ここでならやっていいと俺は学んだよ?」
「いや、ダメだよ?」
あくまでどこまでが本心かはわからない、洒落にならないのが厄介だ。
「いっそ全部吹っ飛ばしても良いだろうけどね」
「…お前は公安なんだってば!全く!」
優しい同期にそう言われてしまえば「まぁなぁ…」と、言う気にはなってしまうものだ。
…故郷を、思い出す。全くの平和だった。人は人で良い、犬は犬で良いような、そんな場所。
表と裏で言えば、それは表の字が書いてある方の書類だった。
言ってしまえばロシアの方が、間違いなくもっと過酷だろうにこの家族はまるで、この国柄なのか良くも悪くも、日本人のように平和主義だと感じる。
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