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「それ、テトロドトキシンかな?死んだふりまでしてくるからには何かあるだろ?」
「流石神様」
「さっきヤブっていったよね。エタンの逃亡先ってところ?」
「別に。飲みすぎて死にかけただけだよ。へぇ、あのクソ野郎生きてんの?残念だ」
「あぁそう。じゃあカフカさん?」
「何?なんかあんの?ウチの親父に」
「あぁ、そうだったね」

 捉えようによってはいくらでもあるが、これが朔太郎の管轄かと考えればわからない。が、それは自分の問題じゃない。

 ミルカがゴム手袋をぱちんとつけたのに、てゆうかこいつはそれすらしていなかったのかと無駄なことに気付く。

「カフカさんならウチに用事はないと思うよ?確かに恩はあるけど、君も他と同じか?勘違いしてるけどここは別に軍用じゃないし」
「そうなんだ、じゃぁなんだっていうの?」
「見てわかるだろ?ただの」
「ただの病院にこんなヤブはいないと思うけど。なら、ゲリラ御用達?」
「別にそういうつもりはないよ」

 ミルカは向かい合ってパイプ椅子に座り、「ボランティアだよ」と抜かす。

「そのわりに結構デカいね、ボロだけど」
「廃病院だったからな。修繕費も降りないよ」
「へぇ、利益や薬はどうしてんの?どうせこれ、あれでしょ?心肺蘇生でよく使ってたやつ」
「別に国に頼らなくたって薬くらい、フランス産だし、入ってくるよ」
「認可されてんの?それ」
「勿論。一級医師にはね」
「あんた医師免許なんて持ってたっけ、意外だね。そもそも研究者じゃないの」
「侵害だなぁ。じゃあノーコメントで」

 ヤブじゃねぇか、やっぱり。

「研究ってのは後に認可を貰って認められるって知らないの?」
「…あっそ」

 不認可か。
 人をなんだと思ってるんだろうか。

「まぁ、あんたみたいな特急あっぱらぱーが取れるもんじゃないってのは俺でもわかるよ。
 あんた、どうやって生き残ったの?」
「それは俺が君に聞きたいよ。トンじゃったって聞いたけど、殺されないもんだね。まぁ、カフカの玩具で、あのユダの子供だもんな」
「そうだね……」

 この話ぶりからして、カフカが命を狙われてるという解釈はまだ足りないだろうか。
 もしくは、自分が完全にカフカから邪魔にされているのか。しかし、ここは軍でも国でもないという。

「でも、狙われる覚えもないけど」
「っはは!お坊っちゃんは言うことが違うな、ホントにどうして生きてんの?」
「強運かな」
「つまらない冗談はいいから。どうやって生きてんの?」

 …まぁ、どうやら敵であることは間違いないらしい。

「何?それが知りたいの?俺は誰に殺されんの?国でも軍でもないなら個人な気がするけど」
「いいんじゃない?知らなくていいこともあるし」
「ヤブでも医者なら予防策ぐらい出してよね」
「あぁそうだった。カフカさんからの仲だしな君は。お坊っちゃんだし。本気で言ってんなら可哀想に」

 いい情報にいきそうだ、ここまで聞くのは非常にダルかったとドアの向こうで思うが、忠犬くんは「あ?」と柄悪く突っ掛かってしまうようで。

「君には知らないような世界があるのかもしれないよ。君、“反社会組織”って知らないの?」
「は?」

 ふむ、外れだな。今のうちに少し院内を見回ろう、ふと思い立ち朔太郎は扉をコン、コンコンとノックした。

「はい?」

 返事を得るか得ないかのタイミングでドアをあけ、「すみません、タバコ吸いに行きますね」と、朔太郎が至って平然と告げる。

「あぁどうぞ…シバタ、ほどほどにね」

 苦そうにオーリンが言う。クロエは朔太郎と目が合った。
 そして、扉は閉まる。

 それが反社程度なら、随分質が悪い話しだ。畑を知らない草はただの雑草でしかない。

「日本人って何考えてるかわからなくてさ」
「随分落ちぶれちゃったんだな、軍の研究家も」

 何事もなかった、興味もないと言いた気に話を続けるクロエに、オーリンの表情が曇った。

「金にでも困ってんの?」
「彼かい?彼はボランティア団体の」
「どこの世界だって、ヤクザと組むマフィアは滅びるもんだけど。まぁ、俺は世間知らずだけどね」
「そうだね、君はわかっていないようだな」
「彼の話じゃないけど?」
「どちらにしても、だ。
 金というのはなクロエ。信頼と同義語だよ。必要なところに必要な分が回れば上等だ。それは平等だからこそ札束には名前や住所が書かれてないんだよ」
「別に聞いてないよ。左派にも右派にも同じ人間の血が流れてるってのは俺もわりと見てきたから」

 オーリンは散乱するように物がごちゃごちゃと置かれた台に座り、ふぅ、と、わざとらしく息を吐いた。

「…君があの洋館からカフカに連れてこられた日を思い出したよ。俺は衰弱しそうな君の…食事や体調の管理をした」
「俺がどんな目に遭っても側で見ているような変態だったよね。お陰で軍に入っても丈夫に生きて行けたよ、」
「だって、そーゆーことだろ。父親への追悼でも述べてやろうか?」

 オーリンはにやっと笑い、眉間を揉んだ。
 どこか定まらない視点はまるで視姦するようだとクロエには皮肉が沸いた。

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