6
やはりクロエに教わったピッキングでは開かないタイプの部屋だった。当たり前か、こんな場所の院長室など。ちょっと、南京錠で油断はしたけど。
しかし朔太郎がここに来て2日、初日ですら院長を見ていないなと考えているうちに、ポケットに入れてある呼び出しコールが鳴った。
ふむ、そうなったか。盗み聞いた医務室の会話からして、オーリンと名乗っていた医務官とクロエはどうやら基地の頃からの知り合いだ。
あれが医師かどうかはわからないが、本当に医師であれば軍医者、仮死状態のクロエが生き返ったのも少し納得する……ような。
さて、そうなると騒がしいだろう、ここにいるのは不審がられるかと考えているうちに、暗い廊下でわかりにくかった。奥から銃器を持ち歩くカシャカシャした音が聞こえてくる。
…恐らくは猟銃なんか、か。
「おい」
確かに、腰にホルスターを下げ軍用小銃を背負った如何にもな黒人の男がこちらに拳銃を向けて歩いてきた。
この病院には軍医も幾らかいるようだが、医師かはわからない。名前も知らない人物ばかりで名簿も曖昧だったのだ。
「貴様、何故いまここにいる」
朔太郎は素直に手を上げ「呼び出しが掛かりましたね」と淡々と言った。
「今から向かおうというところでしたか?俺もです」
「………」
無言、疑惑の目で見てくる軍人に、「下でしょうか」と、窓の外を眺めた。
どこか破壊された音が遠い。クロエが武器庫から何かを強奪したのだろうか。
幾つか走る足跡も、階段の方から迫っている。
「……医者は大人しくしてろ」
「ご心配どうも、護身くらいは出来ますよ」
朔太郎は持ち歩いていた拳銃を見せた。
「はぁ?リボルバーで?」と軍人はまだ疑いの目のままだが、顎で「そっち側で構えろ」と階段の側へ朔太郎を促し、反対側で待った。
ここの非常口は最早非常口じゃないからな。喫煙所としても微妙だ。
二階から逃げる方が無難な策のような気がするけど。
なら、ここへは来ないだろう。窓から小銃で射撃準備した方が仕留められるだろうに、ただ、ここまで本当にクロエが来たとしたらこの階段でこの軍人が外す可能性は0だろう。
やはりリスキーだ、ここにクロエは来ない。
「なんでここにいた」
軍人がやはりまだそう聞いてきた。
「院長に呼ばれてまして」
「嘘吐くなよ、バカなのかお前」
「あんたこそ何故こんなところに」
「は?」
しかし黙った。足音がする。ざわめきもする。
顔は出せないが明らかに階段の踊り場が騒がしい。もう来るだろう。精々二階から逃げるのかと思ったが……。
軍人が二階に向けて拳銃を構えた…。
が、ほぼ、その瞬間にはピンポイントで拳銃が吹っ飛ばされ、彼は身を翻して避けた、割には顔面に蹴りを食らってよろけている。
スカートがひらっと見える。銃声もした、強化ガラスの窓が割れる。綺麗な一直線上。
クロエは信じ難くも手摺を走ってきたようだった。
まるで足場にされたような軍人が「Damn……!」と起き上がるのは早い、小銃を持ち直し割れた窓を覗く。
「遅ぇよ!」と軍人に怒鳴られた朔太郎は、はっとして「援護射撃」という体で下を覗いた。
驚いた。
クロエが二階あたりで壁を蹴りボイラーの屋根の上に着地、次にフェンスに飛び乗り生えていた木を使い、そしてくるんと柵を一瞬足場にしコンマ後に敷地の外にいる、一階から追いかける武装の男、二階からも射撃は追うが、よくぞ当たらない、まるでダンス、いや、猿を見ている気分になって。
「フランス兵か、」
そうだあれ今やスポーツのやつ、なんて言ったか初めて見たぞと、朔太郎は唖然とするばかりだ、というかスリリングだ、あんな丸腰で当たらないなんて、やはり人間じゃないなあいつ。
死にかけてたんじゃなかったのか、というのも過ったが「おいコラ何してやがるっ!」と側から怒鳴られ、そうだった、と思い出す。
真剣な眼差しで小銃を撃った軍人の、その弾がクロエの脇腹あたりに少し擦ったように見えた、側に隠れる。それから軍人は無線で柵の外に辿り着いた兵隊たちに「左の、ボイラー付近だ」と指示をしていた。
…さぁて、回収&撤収をするべきかもしれない。
が、まずは疑いの目線をバチバチとさせているこの軍人の前から消えることが出来るかどうか…。
「で。お前は何故ここにいた。銃も使えない医者が、いかにも不自然だな」
「唖然として」
「はぁ、」
「あんたも若干呆気に取られてただろ。軍人がそうなるんだ、ただの医者には」
「話をすり替えるな。Sirに何の用だ。お前らと話す人じゃないだろう」
ちゃんちゃらおかしい。
「はぁ?…どうしてだ、院長様じゃないか、なぁ」
嘲笑い言ってやるが、まぁ、この場に自分が「不穏分子」だとこの軍人にはお見通しらしい。野生、軍人の勘のようなものも手伝っているのだろうか。
- 51 -
*前次#
ページ: