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昔の夢は、朔太郎も見た。
どんな夢を見たかはいつも、起きたら忘れてしまっているのだがわかる、多分仕事でしくった時の夢だ。
その頃自分は今より若かった。
どうしてか、若さ故の闘争心、いや、猪突猛進の先の「行ってこい」だったと思う。
…さて、珍しいな。緊張というのは自然とそこに漠然と立ち尽くす“客観”なんだろうけれども。
一度息を吐き力を抜いた。タバコは吸いたくない、全てが身体から抜けてしまい腰が上がらなくなりそうだからだ。
ロシアンルーレットと化したバスケットから飴を一握りしひとつを口に入れ、残りをポケットにストックをしておく。
実のところ人工的でたまに何味だかわからないこともあるが、この甘さは桃だろうか。弾けて口が爆破されている。
クロエは最近、黒蜜にハマったらしい。ガリガリしながら黙っていた。
第一会議室のプレートには「Extremism Response Meeting」とA4紙が張ってあった。
この会議は第一回目になるが、これからE.R.Mとでも呼ばれるのだろうか。如何にも曖昧でわかりにくい。
この予防線はせめて何回かは使われるだろう名称だな、と、クリスタルの顔が浮かんだ。
会議室にはまず、ジェシーがいた。
緩く座るアレクと、話し相手のミシェル。それから書類を睨むカツマタ。全体を見渡すように後ろに座り腕を組むクリスタル。
こちらに気付いたジェシーはまず、朔太郎を見て表情を一瞬引き締めたが、多分クロエだ。すぐに表情が少しだけ変わったように見える。
珍しい、この鉄面皮が。
ジェシーの反応から、冷たい上司のような顔をしていたクリスタルもすぐクロエを眺め、同じく表情を変えた。
「…シバタ。お待ちしておりま」
「ヤダ素敵クロエちゃんっ。パリコレみたい、」
すぐさま的になったクロエは愛想笑いをし、「でしょ〜」と柔らかくなった。
「隊長、」と言いつつ側に寄りクロエを眺めた鉄面皮ですら「これならカッコよさもある…」と感心していた。
「日本のキモノっていう民族衣装が元みたい。ドレスコードOKかな?」
着物ドレスなるものらしい。さっき、確か帯辺りに拳銃を仕込んでいた、そんな拘り。倫理観の理解が難しい。
いや…よくよく考えれば着物って正装だよなと朔太郎の頭に過る中、「わ、マジだゴージャスぅ」とアレクまで乗り、緊張感は完全にカオスとなってしまった。
やれやれ…と朔太郎がメインデスクで資料を手にすれば、ぶっきらぼうなカツマタが「なんじゃあれは」と漏らす。
「袖、すごぉい。広げたら蝶々みたいな」
「西洋アレンジらしいよ。ね?サクちゃん」
「確かに着物は袖の長さで生娘か既婚者かとかあるけど取り敢えずファッションショー会場じゃねぇんだわ。座れ」
あ、ついつい…と離れたクリスタルと、あ、そうだったと戻って来てはまた鉄面皮に戻ったジェシーは「えー、」と改まる。
「これより第一回、過激派組織D.Oについての対策会議を始めます。
会議を取り仕切ります、機動捜査1部隊巡査、ジェシカ・ヴィンターハルターです。
この度、事経のシバタ氏から過激派組織D.Oについての合同捜査要請を受け、各部お集まり頂きました。
しかし、いまのところ我々機捜隊は、捜査本部を立ち上げるにはエビデンスが曖昧だと捉えています。
まずは各部の捜査進行状況を詳しく聞き、機動捜査1部隊隊長クリスタル・カミュが今後の方針を上層部へ進言することになります」
「機捜隊なんて出てきたんだ」
ちらっとアレクが朔太郎を眺め、面白そうににやっとした。
「つまり、あくまでこの回はまだ“初動段階”であり、これからは“それぞれ事実上内密な捜査になる可能性もある”という認識で間違いないかな?」
「お話が早くて助かります」
「はいは〜い。じゃあまず俺の自己紹介ね。
特別犯罪一部隊、アレックス・シンドラーですが、まぁまぁ承知かな?現在こっそりとこちら、組織犯罪5のミシェルとちょこちょこ情報共有をしてマス」
「特犯1と組犯5、ですか…」
考えるようにジェシーが呟き、次にカツマタをちらっと眺めた。
「……捜1カツマタ。つまりオタクらは麻薬犯罪の路線から来てるっつーことね?」
「そうだね。よろしくカツマタ。そちらは殺人の線、というわけだね」
「…シバタ、お前が言っていた意味が漸く今わかった。なら、何故アレがいるんだ?」
カツマタは不躾な態度でクロエを見るが、当のクロエはソファに寝転び、小型ゲーム機を操作している。
「…話はアレクの依頼、ソレの実家強盗事件から始まる。特犯としてはクロエが主人公なわけだ。
そしてクロエの元ルームメートの連続猟奇殺人鬼はジャン中だったと。そこで新たな資料が俺の手元にある」
朔太郎は、先週の“廃病院潜入捜査”と題打たれた資料を翳して見せた。
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